彼女のレシピ |
「……でね、やっぱり、一番大事なのは隠し味なの!」 ドラグーン城。某所にて。 一人の少女がぐぐっと拳を握った。 陽光に透ける明るい茶色の癖毛をリボンで留めて、色素の薄い胡桃色の瞳はきらきらと輝いている。 オレンジ軍の主、ホムラの義姉であるナナミは、右手に包丁左手にじゃがいもを持ち、力強く語る。 「無難に味を調えたって、物足りないでしょ?でもね、ちょっと変わった物を入れることで、全体の味がぐっと引き締まるんだよ!」 「なるほど。勉強になります」 ふわりと柔らかい黒髪に、灰色の混じる黒い瞳。 赤い服の上から真っ黒いエプロンを掛けたカスミは、ナナミの言葉に生真面目に頷いた。 頷きながら、手の中で暴れる鶏の首をごきりとねじる。 ドラグーン城のレストランには、一般に開放されている調理場がある。 食材は持ち込みになるが、器具、調味料、卵は使い放題なので、お菓子作りをする娘さん方や財布の中身の乏しい兵士たちに、愛されている。 しかし、今、この愛される場所も、恐怖の部屋へと変貌しようとしていた。 一撃必殺料理の作り手、ナナミと。 暗黒毒料理の達人、カスミによって。 ぶっちぶっちと鶏の羽をむしりながら、カスミは微笑んだ。 「ナナミちゃん、面倒なことを頼んで、ごめんなさい」 「面倒なんて事ないよー。あたし、お料理好きだし」 からからと笑いながら、ナナミは握りつぶしたジャガイモを鍋の中に放り込んでいく。 「最近、ホムラ疲れてるみたいだし。手料理でも作ったげようかなって思ってた所なんだよ」 「優しいんですね」 「大事な弟だもん」 顔を見合わせ、笑う。 「カスミさんも、スオウさんに作るんでしょ?」 「ええ。受け取って下さったことはないんですけど」 苦笑して、カスミはみじん切りにした鶏を鍋に加える。 「なんでかなー?スオウさんって、好き嫌い激しいのかな?」 「どうでしょう。グレッグミンスターからドラグーン城へ来られる時はいつも、グレミオさんがお弁当を渡してらっしゃいますけど、特に偏ったものではなかったように思います」 「グレミオさんかぁ。あの人、お料理プロだもんねー。舌が肥えてるのかも」 「ああ、それはきっとあるんでしょうね」 和気藹々とおしゃべりをしながら、二人は食材を次々に巨大な寸胴鍋に放り込んでいく。 ジャガイモ、鶏を筆頭に、トマト、タマネギ、にんじん、ピーマン、キノコが何種類か。 ほとんど丸ごと入れる物もあれば、粉砕した状態で入れる物もある。 ナナミは木べらで鍋の中身をかき回して、落としぶたをした。 「これで、味がしみこむまで、しばらくお休みー」 「どのくらい、煮込む物ですか?」 「んーとねー、2時間くらい」 「じゃあ、それまでお茶でもしますか?」 微笑みながら、カスミはエプロンを外す。 「あっいいねそれ!それじゃあたし、ハイヨーさんに貰ってくるね!」 ナナミはぱんと手を叩いて、にっこりと笑った。 調理場の、外。 窓の下に、一人の少年がうずくまっていた。 茶色がかった黒髪の中に手を突っ込んで頭を抱え、茶色の瞳は虚ろに虚空を彷徨う。 軍主ホムラは、呆然と呟いた。 「………ナナミと、カスミさんの共同料理……」 はは、とホムラは乾いた笑みで、ルックを見上げた。 不機嫌な風使いは、壁により掛かり、冷めた目でホムラを見下ろす。 「……何で僕はここにいるのさ」 「だって、一人で偵察するの、心細くて」 ホムラは真面目な顔でそう言って、ルックの手を握る。 「……何?」 「いや、どっか行きそうな顔してたから」 「その通りだよ」 無表情に、ルックはぺいと手を放す。 「行ーかーなーいーでー!!!」 中の二人に気付かれないように小声で叫んで、ホムラは背を向けるルックの足にしがみついた。 「本気で怖いんだよ!頼む!お願い!ルックー!!」 「勝手にすればいいだろ。僕を巻き込むな」 うんざりと言葉を返せば、ホムラが足下からルックを見上げる。 涙目だった。 ふるふる体が震えていた。 爆発寸前だった。 長い長い時間、にらみ合って。 「……付き合えば、いいんだろ」 ルックは溜息を吐いた。 お茶を飲んで、お菓子を食べて、おしゃべりをして。 女の子二人、調理場に椅子を持ち込んで、明るい笑い声が響く。 料理の話、本の話、うわさ話。 くるくるめまぐるしく話題は変わり、乙女の常として恋愛話に落ち着いた。 「テンガアールさんて、いっつもヒックスさん怒ってるよねー。前からああなの?」 「ええ、そうですね。でも、お互いを大事になさってますから」 微笑んで、3年前のネクロードの話をすると、ナナミは目を輝かせた。 「へえ!ヒックスさんも、やる時はやるんだね!情けないだけの人かと思ってたよー」 「それは、ちょっと可哀想ですよ。ヒックスさんは、フリックさんと同じ戦士の村の出身ですから」 「ふーん。じゃあさ、ヒックスさんおっきくなったら、フリックさんみたくなるのかなぁ?」 「それはどうでしょうね」 苦笑するカスミに、ナナミはからりと笑う。 「かなり無理っぽいよね!」 「……女の子の会話って、普通に怖いよね」 窓の外に座り込んで、ホムラはしみじみと呟いた。 壁により掛かったまま、ルックは半眼になる。 「……アレが出来上がるまで、ここでこうしてるの?」 「うーん、2時間か……ちょっと暇かもね」 ホムラは腕を組んで、首をひねって、予備調査でもしてようか、と指を鳴らした。 ごとり、と背後の植木鉢が持ち上がり、サスケが生えてきた。 「………既視感が」 額を抑えて呻くルック。 ホムラはにこにことサスケを手招いて、サスケはどこか不機嫌そうに、ホムラの前にあぐらを組んで座る。 真っ直ぐにホムラを見て、サスケは短く言葉を発した。 「で?」 「カスミさんの料理について何だけど」 ホムラが小さな声で問いかける。 「……どのくらい、危ない?」 不思議そうに、サスケは首を傾げた。 「カスミさん、料理上手だぜ?」 「うん、まあ、それは分かるんだけどね」 引きつった笑いを浮かべ、ホムラは溜息を吐いた。 「でも、人体に無害な物を、作らないでしょ?」 「お前、何言ってんだ?」 本気で不可解そうに、サスケは呆れ顔で説明する。 「カスミさんは里で一番、毒の見極めが上手くて、死人出した事無いんだぞ?」 ホムラとルックは、沈黙した。 二人して無表情にサスケの顔を眺め、顔を見合わせ、ぼそぼそと呟く。 「……サスケ何か変な事言ってるよ」 「……あいつには普通なんだろ」 「死人?料理で?毒への耐性をつけるのに、毒料理食べてるとか」 「……今更、驚くことでもないけどね」 ため息をつくルック。 ぱし、と音がして顔を上げると、ホムラがナイフをつかんでいた。 「ロッカクの里って、無駄に奥深いよね」 頷きながら、ホムラはナイフを鋭く投じる。 刃の側面から足を絡めて柄を膝で押し上げて、宙に舞うナイフを、スオウは音も無く手のひらに収める。 黒髪を、掠れた色をしたバンダナの端を風に揺らせながら、スオウは穏やかに微笑んだ。 「貴様らはそんな所でこそこそと。見ているこっちが不愉快になるから死ね」 笑んだまま、穏やかに付け加える。 「介錯くらいはしてやってもいいよ?」 「死ね。お前こそ死ね」 半眼に睨み付け、ホムラは低いうなり声を上げる。 スオウは優しく微笑んで、振り向きざまにサスケを蹴り飛ばした。 勢い良く吹っ飛んだサスケは、転がり体勢を立て直し、低い姿勢からスオウに向かって手に握りこんだ小型の刃物を振り上げた。 鈍く、刃が噛み合い、響く。 細いナイフでサスケの武器を受け止め、スオウは楽しそうに微笑む。 ぎりぎりと力を込めていたサスケは舌打ちをして、地面を蹴ってスオウから間合いを取る。 ゆったりとナイフを手のひらで転がすスオウを睨み、武器を構えて。 頭頂部にごんと拳骨を食らって、サスケは地面に沈んだ。 「何してるんだよ!サスケまでさぁ!」 仁王立ちに、ホムラはのた打ち回るサスケを見下ろす。 「スオウはもうしょうがないかなって諦めてるんだけどね!何サスケまで人外生物の仲間入りしようとしてんのさ!!」 「……ホムラお前、本気で殴ったな……」 微かに涙目になりつつ頭を抑えるサスケに、ホムラは大きくため息をついた。 「あのさ。反撃は認めるよ。そりゃやられたらやり返さないと、殺されるからね。でも今、サスケ自分から攻撃しただろ?」 「……悪いのか?」 サスケはぽかんとしてホムラを見上げる。 ぽりぽり頭をかきながら、ホムラは言った。 「悪いっつーかねー。火事場に自分から突っ込んでいく奴は馬鹿と言うんだよ」 「俺は馬鹿じゃねーぞ」 サスケはむっとする。 「里の教えだよ。やられる前にやれ、だ」 「僕から、もっと大事な事を教えてあげよう」 まじめな顔をして、ホムラは言った。 「実力差がありすぎる相手とは、目が合う前に逃げろ。言っておくけどね、サスケ程度の実力じゃあ、スオウにかすり傷ひとつつけられないよ」 「……まあ、正論だね」 無表情にルックがサスケを眺める。 「死にたいなら止めないけど」 ホムラとルックの、あまりに冷たい視線に、サスケは不貞腐れながらも武器を仕舞った。 穏やかにその光景を見つめながら、指先でナイフを回していたスオウは、優しくサスケに微笑んだ。 「役立たずの死に損ないだね」 「何の役にも立ったことの無い汚染物質が偉そうにすんな!!」 ぎゃあぎゃあ吼えるホムラを見ながら、ルックはナナミ料理の監視はどうした、と突っ込もうかと思ったが、どうでもよくなってやめた。 取りあえず、ホムラを差し出しておけば、自分にまで料理がまわってくる事はないだろう。 一人密かに考えて、ルックは壁にもたれて目を閉じた。 「??なんか外、騒がしいね」 クッキーを口にくわえて、ナナミは首を傾げた。 「そうですね。まあ、たいしたことではないでしょう」 「んーそだね」 あっさり頷き、ナナミはぼりぼりとクッキーを噛み砕く。 カスミは優雅に紅茶に口をつけていたが、ふと顔を上げて、首を傾げた。 「ナナミちゃんは、好きな人はいないんですか?」 「え?あたし?」 カスミの問いかけに、ナナミはきょとんと首をかしげた。 「今は、そーゆーのあんまり考えられない感じかな。ホムラとジョウイが大事。これだけで、精一杯だよ」 笑うナナミに、カスミは不思議そうに問いかける。 「ホムラ様とも、ジョウイさんとも、血のつながりはないんですよね。だったらそれは、恋情では?」 「んー、どうなんだろ」 カップの中の紅茶を見つめ、ナナミはぽつりと呟く。 「二人とも、大事で大好きだけど。そういう風に考えた事、無いな」 首をかしげて、言い直す。 「ちょっと違うな。好きの種類を考えようと思った事無いの。恋でも愛でも友情でも、好きな事は変わんないし。それだったら何でもいいやって思って」 ナナミはくすりと笑った。 「今よりもっと小さい時にね。あたし、ホムラとジョウイのお嫁さんになるって言ってたんだよ」 「あら。二人いっぺんに、ですか?」 カスミがくすくすと笑う。 ナナミも笑いながら、頷いた。 「うん。そうだよ。結婚したらね、ずっと一緒にいられるでしょ?一緒にいて、ずっとずうっと守ってあげようと思ってたの」 どっちかを選べないくらい、ふたりとも大好きだから、まとめて守ってあげるんだと、幼いナナミはゲンカクにそう言った。 年老いた養父は、まあ頑張るだけ頑張ってみろと、笑うだけで。 頑張ろうと思ったのに、いつの間にか忘れていた。 形なんかいらなかった。 ただ、側にいて、一緒に笑って、一緒に泣いて。 はっきりとした形なんか無くても。 はっきりとした言葉で縛らなくても。 幼かった、あの頃の、ただただ純粋で、真っ直ぐな、気持ちは、心に。 「今でも、思うよ。二人を、守りたいって。でも、あの子たちは、別の道を選んで、自分の足で歩いてる」 力を求めたジョウイと。 力を受け入れたホムラ。 道は分かれて、敵同士になってさえ、それを選んだ二人。 「あたしたちは、ひとりひとりなんだなって、気付いて。それで、いいと思った。一緒にいられる時は一緒にいて。一緒にいられない時でも、幸せになって欲しいって、いつでも思って。守れるなら、守って。それで、いいの」 ナナミは笑う。 「ホムラとジョウイが、大好きだからね!」 穏やかに目を細め、カスミは微笑んだ。 「素敵ですね」 「そーゆーカスミさんこそ、スオウさんに恋してるんでしょ?」 きらきらした目で見つめられ、カスミはぽっと顔を赤くする。 「恋……なんでしょうか?あの、尊敬していますけれど……」 頬を押さえて、小さく小さく囁く。 「……素敵な方ですから。ただ、憧れているだけなのかも知れません」 「憧れから始まる恋ってのもありだと思うな!」 びしりと親指を立てるナナミ。 「だって、スオウさんを見てる時のカスミさんって、恋する乙女だもん」 「そう……でしょうか……?」 不安げなカスミに、ナナミは首を傾げた。 「そう見えるよ?」 「……そうだったら、嬉しいです」 静かに、カスミは微笑む。 「……私たちは、普通の人たちと、違いますから。私の気持ちが、どんなものなのか、ずっと不安だったんです」 閉ざされた里。 他の何もかもを捨て、ただ誰かに従うだけの、道具。 それを、疑問に思う事すらなく、歪んでいる事にすら気付かず。 そんな人間が。 誰かを、好きになることが出来るのだろうかと。 ……これは、恋なのかと。 忌まわしい、ものではないのかと。 「私の中では、とても大切な気持ちですけれど……狂気なのかもしれないと……そう、思って」 「あのね」 ナナミは、少し笑って、首を傾げた。 「余計な事考えちゃうから、難しくなっちゃうんだよ。その人の事だけ考えて、自分の心がなんて答えるか。これだけで、いいんだよ」 「自分の心、ですか」 カスミは胸に手を当て、そして、微笑んだ。 思いは音も無く、溢れて。 「私は、スオウ様が好きです」 口に出した途端に、静かに涙が零れた。 たったひとつだけ。 この気持ちだけが、彼女のもので。 それだけで、心が、いっぱいだった。 ナナミはぎゅっとカスミの手を握る。 「お鍋も煮えたし、仕上げだよ!ここが一番大事だからね!」 嬉しそうに笑うナナミに、カスミも笑って、頷いた。 叫び疲れてぐったりと、ホムラは草の上にうつぶせに寝転んだ。 「うううう……無駄な体力を使った………」 意味無く草をぶちりとむしりながら、溜息をつく。 飽きたのかルックは熟睡しているし、サスケは攻撃したくてうずうずしていたので強制送還した。 残っているのは、罵詈雑言の限りを尽くしても、優しく穏やかな微笑を微動だにさせない、殺戮悪魔だけ。 悪魔はナイフ4本で器用にジャグリングしつつ、ホムラに向かってナイフを投げつつ、相変わらず微笑んでいる。 「貴様は相変わらず、学習能力の無い猿だね」 「うっさい黙れ死ね」 不機嫌にホムラは吐き捨て、むしった草を投げつけた。 みじん切りになって、地面に散った草を、何となく見届けて、壁にもたれて座りなおす。 空中で回転させていたナイフが全てホムラの手に収まると、スオウは少しだけ残念そうな顔をして、壁にもたれかかった。 静かに風が過ぎて、わずかな空白。 「スオウはカスミさんの事好きなの?」 「不躾だね」 二人とも、壁にもたれて、前だけを見て。 視線を合わさず、言葉だけ交わす。 「貴様には関係ないだろう?」 「無いよ。ただの疑問」 スオウは微笑んだ。 「答える必要は無いな」 「無いね」 さわさわと、梢が揺れ。 「あ。ホムラ」 窓からひょっこりと、ナナミが顔を出した。 にこーっと笑うナナミに、ホムラは一瞬間をおいて、ダッシュで逃げようとした。 しかしあっさりナナミに捕獲され、ホムラは遺言を考え始める。 「さっきからばたばたしてたの、やっぱりホムラだったんだね」 窓を乗り越え外に出てきたナナミは、スオウを見て、呆れて人差し指をホムラに突きつける。 「ホムラったら、スオウさんとケンカばっかりなんだから。もうちょっと仲良くしなさい!」 「絶対、嫌」 真顔で小さく呟くと、ばごんとすぐ後ろの壁がへこんだ。 めり込んだ三節棍を手元に引き寄せ、ナナミは構えた。 「もう!スオウさんに失礼でしょ!お姉ちゃんの鉄拳制裁くらいたいの!?」 ぱらぱらと肩に落ちてくる、壁の破片。 ホムラは沈痛な表情で、ナナミから視線をはずし、拳を握り締める。 「分かって欲しいんだ……自分では、どうにもならない事も、あるんだって」 「ホムラ……」 ノリに流され、ナナミは涙ぐんだ。 微笑んで、穏やかにスオウが呟く。 「無能」 「そもそもスオウがそんな歪みまくった性格してるからだろうが!!頭ん中丸洗いして出直して来い!!」 「ホムラの馬鹿ぁっ!!!」 ナナミの叫び声とホムラが振り向くのとその顔面に回し蹴りが決まるのが同時に起こり、ホムラは勢い良く吹っ飛んだ。 びたんびたんと陸揚げされた魚のように地面を跳ねるホムラを睨んで、ナナミは腰に手を当てた。 「お姉ちゃん情けないよ!さっき言ったばっかりなのに!!」 「でもさ!」 髪に草を絡ませながら、ホムラがよろよろとひじを突き、必死に叫ぶ。 途端、ナナミの顔から表情が消えた。 氷のような冷たい瞳で、ただホムラを眺め、静かに告げる。 「それ以上言い訳するなら、本気で怒るからね」 「……………………ごめんなさい」 蚊の鳴くような声でホムラが謝ると、ナナミはひとつ、頷いた。 「分かればいいんだよ」 ホムラの手をつかんでずるずる引きずって、無理やりスオウとホムラの手を繋げる。 相変わらず穏やかに微笑むスオウと、凄まじく珍妙な顔で硬直するホムラの手をぶんぶん振って、ナナミはにっこりと笑った。 「はい。仲直りね」 ホムラは血を吐いて、倒れた。 目が覚めると白い部屋で、心配そうに覗き込んでいたナナミの顔がぱっと明るくなった。 「ホムラ!良かったぁ。心配したんだよ!」 「ちょ、ナナ、ギブ!ギブ!」 思い切り抱きつかれ首が絞まり、ホムラは必死にシーツをべふべふ叩いた。 叩きながら、現状を把握する。 寝転んでいる自分。 さらさらした、真っ白いシーツ。 視界の端に、苦笑するホウアンの姿。 「え……と。医務室?」 「そーだよ!ホムラいきなり倒れちゃうんだもん。やっぱり、ホムラ疲れてたんだね」 一人頷くナナミに、違うんだよそれとは違うんだと力説したかったが、気力が根こそぎ無くなっていたので、はははと虚ろに笑うだけにした。 そして、気付いてしまった。 ベッドの、すぐ側に小さな机があり。 その上に、布がかかった、何かがあるのを。 「……………………ナナミそれ」 「あっコレ!ホムラに上げようと思って、作ってたの!」 にこにこと、ナナミは笑う。 ホムラは、心で泣いた。血の涙だった。 「お見舞いになっちゃったけど。はい!どうぞ!」 布を取ると、そこには。 4分の1にカットされた、チョコレートケーキ。 「カスミさんにね、お菓子の作り方教えて欲しいって言われてね。一緒に作ったんだ」 ナナミは、にこにこと。 にこにこと。 にこにこと。 「遠慮なく食べて良いからね!」 ホムラは死を覚悟した。 「………………チョコレートケーキ?」 「はい。ナナミちゃんに教えてもらったんです」 「…………どこでどうなって、こうなったわけ?」 「お菓子って、出来上がると全然形が変わってしまうから、不思議ですよね」 「………………普通は、ここまで変わらないと思うけど……」 「スオウ様が受け取ってくださらなかったので、よろしければルックさん、召し上がりませんか?」 「…………………いらない」 ナナミレシピは、図書館の金庫で、厳重に封印される事となる…… |
3000キリバンをゲットされた、榊里樹さまに捧げます。 リクはスオウとカスミ、シリアス含む、との事でした。 初めての捧げ物で、どきどきです。 悩みつつ、迷いつつ、楽しみながら書かせていただきました。 ありがとうございました。 ふじの |