100年目の帰還
あれから百年たった。
あの戦いに幕が下りてから。
それでもまだ、自分が戦争を起こし、たくさんの人が死んだということを思い出すと心が痛む。
そのことにほっとした。
右手に宿る真の紋章。
それは、たくさんの出会いと別れを意味する。
いつまでも、途切れない運命の輪。
あの頃は運命なんて言葉は嫌いで仕方なかったな、そう思い出して、ふと笑みがこぼれた。
それでも、あの時の思い出だけは色あせない。
久しぶりに戻ってきた。
誰もいない、この故郷へ。このグレックミンスターへ。
誰もいないと、確信できたからこそ、帰ってこれた。
100年たったのだから。
大森林まで行けば、エルフや、コボルト達に会うこともあるかもしれないが、行く気は無かった。
一般の旅人のように装って、グレックミンスターに入った。
「よぉ、ひさしぶり。」
入ってすぐに、声をかけてきたのは老人の声。でも、その口調は変わらない。
「シーナ。」
その老人は笑いながらゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「ずいぶんとふけたね。」
「ま、否定は出来ねぇな。」
かわらねぇなとシーナは笑う。
「生きているとは思わなかった。」
「おいおい、勝手に殺すなよ。あの頃のクロウリーのおっさんぐらいの年だろ。」
それはあの頃のシーナとまったく同じ口調。
でも、目の前に立っているのは年を取った老人。
時間の流れ、というものに取り残されてしまったことを自覚させられる。
それも、次のシーナの台詞で忘れてしまった。
「そうそう、言い忘れてたな、よく帰ってきたな。こういうときはお帰りなさい、というものだっておふくろが言ってたっけ。」
その言葉に不覚にも涙が出そうになった。
もう、誰も残っていないと思ったのに、こうして待っていてくれる人がいた。
自分の時は止まったままで、それでも待っていてくれる人がいた。
それが、こんなにもうれしいことだということをなぜ忘れていたのだろう。
「ただいま。」
100年前、なにがあっても、どうしても泣けなかった少年は、本当にひさしぶりに泣いたのだった。
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