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坊→ティル
今までにも、うまくいかない、と思うことがあった。
つらい、と思うことがあった。
でもそれは、逃げでしかなかった。
本当にどうしようもないことがあることを初めて思い知らされた。
◇◆◇
雨が降り続いていた。
わざと濡れながらティルは雨の中を歩いていた。
グレックミンスターの町はトラン開放戦争が起こる前とほぼ変わらなかった。
それは町並みだけであって、あの頃この町に住んでいた人は半分も残っているかどうかというほど住人は様変わりしていた。
グレックミンスターで迎える雨は、自分の無力さを思い出させる。
あの時、テッドを置いていかなかったら。
自分は無力だった。だから、テッドは自分を囮にした。
どうにもならなかった。
ソニエールの監獄でも、あの人食いきのこから逃げるすべはなかった。
父は帝国五将軍の一人で、自分は解放軍主だった。
戦わずにすむすべはなかった。
テッドはウェンディの束縛から逃れるため、テッド自身をソールイーターに食べさせた。
止められなかった。
うまくいかなくてふてくされていた子供の頃が懐かしい。
あの頃は本当にどうしようもないことなんてなかった。
ティルはいつの間にかマクドール家の屋敷の前へ立っていた。
テッドをグレミオを見捨て、父を殺した自分は家へ入る資格がないような気がした。
「坊ちゃん、ずぶ濡れじゃないですか。」
そう言って、クレオが迎え入れるまでティルはマクドール家の前で呆然と立ち尽くしていたのだった。
2主→リオウ
今までにも、うまくいかない、と思うことがあった。
つらい、と思うことがあった。
でもそれは、逃げでしかなかった。
本当にどうしようもないことがあることを初めて思い知らされた。
◇◆◇
ナナミが死んだ。
ジョウイはハイランドの皇王だ。
そして、自分は同盟軍の盟主である。
お腹がすいたとか、寒いけど薪がないとか、そんなことは些細な悩みだった。
あの頃はそれがとても重大なことだった。
どうしようもなかった。
でも、そうしようもないですましたくない。
まだ終わってはいないのだから。
シュウがいる。ビクトールがいる。フリックがいる。ルックが、フッチが、サスケがいる。
たくさんの人に支えられている。
そして、その人たちを裏切るわけにはいかない。
でも、あきらめたくなかった。
リオウは唇を引き結んで歩き出したのだった。
トーマス
今までにも、うまくいかない、と思うことがあった。
つらい、と思うことがあった。
でもそれは、逃げでしかなかった。
本当にどうしようもないことがあることを初めて思い知らされた。
◇◆◇
母がグラスランドの盗賊団に殺された。
きれいな母が赤く染まっていた。
帰る場所も行く場所もなくなったと思った。
それでも、ビュッデヒュッケ城に来て新しい出会いがあった。
いつしかそこは帰る場所になっていた。
どんなに落ち込んでいても進んだ先には光があった。
本当にどうしようもないことがあって、絶望しても、まだ続きがあった。
今ある光を逃がさないために、僕はできることから始めることにした。
過去は忘れられるものじゃないけれど。
それでも、僕は今のために過去を隠すことにした。
4主→カイ
今までにも、うまくいかない、と思うことがあった。
つらい、と思うことがあった。
でもそれは、逃げでしかなかった。
本当にどうしようもないことがあることを初めて思い知らされた。
◇◆◇
グレン隊長が死んで、スノウと敵対した。
罰の紋章を継承し、ラズリルから追われた。
それでも、ずっと嫌だ嫌だといい続けていたら、何かが変わった。
グレン隊長は死んだのは変わりはなかったが、カタリナさんとは和解ができた。
スノウとも打ち解けてきた。
ラズリルにも帰ることができ、罰の紋章はその性質を変えた。
どうしようもならないことはあるとは思う。
でも、その後を変えていくことはできる。
だから、あきらめないとカイは誓ったのだった。
キリル
今までにも、うまくいかない、と思うことがあった。
つらい、と思うことがあった。
でもそれは、逃げでしかなかった。
本当にどうしようもないことがあることを初めて思い知らされた。
◇◆◇
魚人が道端に倒れていた。
誰かわからないが、襲ってきた魚人たちを倒したのだろう。
それが、元人間だとも気がつかずに。
キリルは魚人たちを埋め、石を乗せた。
名前も知らない彼らは、誰に知られることもなく朽ち果てていた。
動くものを襲ってくる魚人たちを倒さないわけにはいかない。
何の罪もないのだとしても。
戻すすべはない。
死をもたらすことのみが自分にとってできるすべてのことだということをキリルは苦く感じていた。
5主→コロナ
今までにも、うまくいかない、と思うことがあった。
つらい、と思うことがあった。
でもそれは、逃げでしかなかった。
本当にどうしようもないことがあることを初めて思い知らされた。
◇◆◇
結局、父と母は死に、リムは今どうなっているか分からない。
でも、絶望を感じてそのままで終われば、リムがどうなるか分からない。
だから、リムを取り返す方法を考えることにした。
この国のために何が出来るか考えることにした。
嘆くことは後からできる。
悲しむことは後からできる。
でも本当は、まだ、振り返るのは怖いから。
それでも、僕は歩いていく。
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