幼き冒険者
「えーっと、あなたたちは?」
人がざわめくグレックミンスター、そこでシキは大あくびをした。
グレミオについてきて買い物に来たのはいいが、店の人と話しこんでいて、とても退屈なのだ。
ずっと手をつながれて子ども扱いされたのもシキをいらだたせている原因の一つだ。
とはいっても、本当にシキはまだ幼い子供なのだが。
店に入って安心したこともあるのだろう、グレミオに握られていた手は離されていた。
そっと、シキは店を抜け出した。
グレックミンスターにはいろんな人がいる。
その人たちと話すのがシキは好きだった。
「あれ?この子シキさんによく似てる。」
自分の名前を呼ばれたことにシキは驚き頭を上げる。
そこには黒目黒髪の神秘的だけどどこか抜けていそうな女性がいた。
ビッキーである。ビッキーは興味しんしんだというように、シキに話しかけた。
「君、なんて名前?」
「僕は、」
「くしゅん。」
シキが答えようとしたとき、ビッキーはくしゃみをした。
シキはテレポートさせられた。
それに気づいたビッキーは真っ青になった。
「いっけない!見つけなきゃ。」
ビッキーはあわててテレポートしようとした。
◇◆◇
キリルと相対しているのはモサモサだった。
最後の一匹だ。キリルは両方に刃のついた武器を構えた。
と、そこへ何かが落ちてきた。
しかし、武器は勢いを止められない。
「わっ。」
そんな声がして、キリルは武器の針路が変わったことを感じた。
目の前の子供が逸らしたのだと気づくとキリルはもう一度その子供に武器を向けてみた。もちろん手加減はしてあるが、並みの子供が受けれるものではない。
しかし、その子供はひょいとよけた。
せいぜい受け止めるだけだと思っていたキリルは驚いた。
「キリル、やめなさい。」
ウォルターがキリルに声をかける。
ウォルター自身も驚いていた。キリルの戦闘センスは抜群で、子供どころか、大人すら倒してしまう。
いくら勢いを殺してたからとはいえ、並みの子供なら避けられるものではないのだ。
「君は?」
「シキです。ここはどこなのでしょうか?」
シキの言葉遣いは赤月帝国の上流階級のもの。ウォルターは不審に思った。
「群島諸国のラズリルだ。クールーク皇国の南に当たる。」
その言葉を聞きシキは首をかしげた。
「クールーク皇国?」
「赤月帝国の南にある国だ。」
シキは首をかしげている。
「それより君はどうしてここに?」
本来の目的を尋ねた。赤月帝国の出身の貴族がここに居るはずないのだ;
「知らないお姉ちゃんがくしゃみをしたらここに来た。転移させられたんじゃないかな?魔法の力を感じたし。」
ウォルターは目を閉じた。
「おじさん?」
シキは不安そうに尋ねた。ウォルターは目を開ける。
「君はこれからどうするのかね?」
「とりあえず、ふさふさでも倒してお金稼ごうかな?何か落とすかもしれないし。」
シキはのほほんと告げる。
「一緒に来るか?」
その言葉にキリルは驚いた。
「と、父さん?」
「ここに置いてく訳にもいかんだろう。」
赤月帝国の貴族の子供をここに置いていき、ひどい目にあわせるのも忍びない。
しかも、キリルと友達になれるかも知れない候補の一人、対等にキリルと渡り合えるのかもしれない子供なのだ。
「いいのですか?」
シキは尋ねる。
「ああ。」
ウォルターは重々しく伝えた。
それから約1ヶ月、ビッキーと出会うまでの間、シキはキリルたちと旅をしたのだった。
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