海の香り


カイは赤月帝国のレナンカンプに来ていた。
レナンカンプは赤月帝国でも有数の商業の街で、たくさんの人がごったがえしている。

人の流れにのり、カイはキョロキョロと辺りを眺めていた。

そこで、懐かしい顔を見かけた。

「テッド!」
その声にテッドもカイに気が付いたようだった。
「よう。」
そう言って駆け寄ってくる。
その横には赤い服を来た少年、シキの姿もある。

シキはにっこり笑う。
「はじめまして。テッド、友達?」
「あぁ、まあな。」
ということは、まだシキは150年前に行っていないことを指す。
「テッドと話がしたいんだけど。」
「うん、じゃあ僕は買い物済ませてる。ケヤキ亭の前で待ち合わせね。」
シキは2人に手を振って街へと駆け出していった。
「まったく、あいつがお坊っちゃんなんて信じられねぇ。」
「いい子だね。」
その言葉にテッドは遠い目をする。
「…まあな。」
その言葉に変わったな、とカイは思う。
「150年前のこと覚えてるか?」
「イヤ、お前に会うからおおまかなとこは覚えてるけど、ほとんど覚えてねぇ。それがどうかしたのか?」
「イヤ。」
カイは首を振る。
覚えていないならそれでいいのだろう。
テッドは不信げな顔をした。
「あまり、いい思い出はねえな。アイツも俺なんかをかばって死んじまいやがったし。」
アルドのことを思い出したのだろう。なんとなく二人の間に沈黙がはしった。

「お前はどうしてたんだ?」
沈黙を破ったのはテッドである。
昔と違い変わったなと思う。
本来彼はこういう性格なのだろう。
「まあ、いろいろあったよ。この前…」

カイはテッドが明るくなったことを嬉しく思った。

◇◆◇

「あ、やべえ、もうこんなに時間がたっていたのか」
太陽はとっくに傾いていた。
「これからどうするんだ?」
ケヤキ亭に向かいながらテッドはカイに聞く。
「さあ?気の向くままかな?君は今どこにいるの?」
「お前らしいな。俺はグレックミンスターにいる。よかったら寄れよ。とは言っても今はお坊っちゃんの手伝いでいないかもしれないけどな。」
「気が向いたらね。」
と、いいつつももちろん行く気満々だった。

「テッド、遅い!」
ケヤキ亭の前ではシキが膨れていた。

「わりい、わりい。」
テッドは手を合わせる。
「もう、飛ばして帰らないと間に合わないじゃないか。」

「許してくれって、一生のお願いだよ。」
テッドは必死にシキの機嫌をとる。

「じゃあな。」
テッドはカイに手を振った。
二人は歩きだす。

その時だ、シキがカイの方に戻ってきた。
「久しぶり、ってもカイ…さんにとったら150年前かな?」
シキはニコッと笑う。
カイは150年前、ラズリルの街でほんの一時、遊んだことを思い出した。…正直気付かれるとは思わなかった。しかも、150年前ということにしっかり気がついている。

「じゃあね。」
シキはテッドに駆け寄った。
「何話してたんだよ。」
「内緒。」


二人はどんどん遠ざかっていった。

◇◆◇

ソレから、足らなかった旅の品も揃えて、食堂でのバイトを済ませて、カイはグレックミンスターを目指した。

しかし、グレックミンスターにはもう二人はおらず、しかもど派手な青いおばさんに追われることになる。