深まる溝
ナナミが死んだというのにサキはいつものように過ごしていた。
それがカイをイライラさせた。
本当に乗り越えられたのならいい。でも、無理して笑っているのがまる分かりだった。
カイはサキの部屋へ訪ねた。
何を言っていいのかよくわからなかったが、それでもこのままじゃあいけない気がした。
「あ、カイ。」
サキはカイを部屋の中へ促す。
カイはサキの部屋へ入った。
「サキ。」
「大丈夫だよ。」
サキは痛々しくもにっこり笑う。
カイは150年前の自分もこんな感じだったのだろうかと嘆息した。「どうも、大丈夫って感じじゃなく思うんだが。」
「目、悪いんじゃない。」
そういう声もハキがない。
短刀直入にカイは要件をいうことにした。
「君が泣かないのは、自分にその資格がないと思っているから?」
その言葉にサキは目を伏せる。
「ナナミちゃんは君のせいで死んだと思ってる?」
「嫌な人ですね。」
サキは、カイの畳み掛ける言葉にそれだけしか答えられない。
「ナナミちゃんは君を守れてよかったと思ってるよ。」
「そうですね。」
「だから、悲しめない?ナナミちゃんは悲しんで欲しくないって思ってるとサキは考えた?」
サキは答えない。
「泣けない理由は他にもある?盟主の姉だから優先されて治療されたこととか?その間にたくさんの人が治療できたんじゃないとか?なら治療してもらわなくてもよかったの?」
サキは口をひき結ぶ。
「ナナミちゃんのことだってだ、それは君が勝手に考えただけなんじゃないのか?」
「あなたに何がわかる!」
「じゃあ、君はわかるんだ。」
「俺を怒らしたいんですか?」
サキは拳を握る。
いい傾向だとカイは思った。
感情を出さずにいたら壊れてしまう。たとえ怒りでも出さないよりずっといい。
「さあ、どうだろ?」
「出てってください。」
サキはカイを押そうとしたがカイはよける。
サキはムキになり、カイを追い出そうとするが、カイは鮮やかに避け続ける。
そうしているうちに、いつの間にか殴りあいになっていた。
サキが殴りかかるが、カイは避け、拳を返す。
サキはその拳を受け、再び拳をくりだす。
が、またしても避けられる。
ただ、今回はカイもかすり傷を負う。
カイが右手を出してきたてサキはよけるが、それはフェイントでカイの左手の拳によってサキはダメージを受けた。
そうして、二人が息を切らした時には二人はボロボロになっていた。
特にサキは立てず、座りこむ。
「ずるい、ずるい、ずるい。」
サキはうつむいたまま、繰り返す。
ようやく、感情の回路が繋がったようだった。
「何が?」
カイはサキを見守る。
サキのプライドを考えて、決して手は出さない。
「全部が。」
最後は涙声になっていた。
一つ、また一つと涙が流れる。
やっとサキは泣けたのだった。
◇◆◇
「よくナナミとは喧嘩したんだ。で2人して、じーちゃんのゲンコツくらった。」
しばらくして、サキはポツリと言った。
なんでもないことだけど誰かに知って欲しかった。
時々途切れながら、サキはナナミの思い出を語った。
カイは黙ってサキの話を聞いていた。
◇◆◇
同盟軍本拠地の城の屋上でカイとシキは、ムササビ達と戯れていた。
「カイが彼女を連れて行ったの?」
シキはカイに尋ねる。
カイはシキがナナミが生きていることを知っているとは思わず、シキの顔を思わずジッと見る。
「ソールイーターが取り損ねてご機嫌ナナメだ。」
そういってシキは右手を見せる。どこまで本気なのかカイにはわからなかった。
「で、どうなの?」
「僕じゃないよ。まあ、ナナミちゃんが生きていることは知ってたけど。」
「ふうん。」
サキはようやく最近まともに笑い出してきた。
ナナミが生きていることを知っているカイとシキは少しだけ罪悪感を感じていた。
「おい、何、話してるんだ。」
キリルがサキを連れ乱入してくる。
「カイ!シキさん!面白いものが手に入ったんだ。」
そういってサキは元気よくニッコリ笑った。
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