切望
1主→シキ、4主→カイ
キリルはカイの後ろについてきていた。
「どこに行くんだ?」
「戦争のどさくさに紛れて村を襲う盗賊がいるんだ。で、僕やシキや戦争に出るにはちょっと早い者たちが見回りをしている。」
そう言いながら次々と自分の受け持ち範囲を見ていく。
とはいえ、馬は乗り慣れないのであまりカイの範囲は広くない。
と、北に煙が上がった。戦場とは違う駆けつけた。
「間に合わなかった。」
炎が燃え盛っていた。村の周りを呆然と村人たちは立っていた。流水の紋章を使っても焼け石に水である。むしろ、怪我人に使うため温存しておく方がいいと判断した。
と、シキのものらしい馬が目に入った。暴れ馬で有名な種類らしい。
村の中にシキはいるようだった。
カイとキリルは顔を合わせると燃え盛る村の中へと入って行った。
「あーちゃん、どこ?いい子ね、出てきていらっしゃい。」
入ってすぐ、女性の声がした。
うろうろと村を歩いている。
「村の外で見ましたよ。」
カイはその女性に話しかけた。
「あーちゃん!」
女性は走って村の外へと駆けて行った。
「いつ見かけたんだ?」
「嘘だよ。自分の足で逃げられるなら逃げてもらわないと。」
そう言いながら、村の奥へと急ぐ。火はほんの狭い道だけを残して燃え盛っている。もうすぐ、その道も無くなるだろう。
「こっちであってんのか?」
「ああ、紋章が共鳴してる。」
と、1件の燃え盛る家に到着した。その家は半分倒壊していた。
「熱いよう。」
少女の幼い声。
「大丈夫、少しだけ我慢して。」
その声は明らかシキだった。その場所は空気だけは清涼だった。
「大丈夫か?」
キリルは呼びかける。その間も熱いと少女の声がする。
「2人いて、1人がぐったりしてる。もう1人の子も少し体力的に辛いと思う。旋風の紋章を下手に使う使うと危ないかな、って思ってたんだ。カイは流水付けてたよね。まず、この家の火、消して欲しい。」
「分かった。」
火が消えたとたん、風が走った。建物は吹っ飛び、隣の家の火が回る。火の粉をキリルは振り払った。
吹き飛ばされた家の跡にシキと2人の女の子がいた。シキはかすり傷が多いが2人は無傷である。たぶん、シキが癒したのだろう。
「ありがと。行こう。もう助かる人はここにはいない。」
そう言ってシキは瞬きの紋章を発動させた。
シキはまだ生きてはいるものの、助からないであろう者達の気配をソールイーターを通して感じていた。
◇◆◇
しばらくして、火が収まった。
その間、シキ達は村人達の傷を治していた。苦いものがこみあげてくる。どんな言い訳も死んだ者への弔いにはならない。
助けられた女の子の1人はずっとシキの裾を握っていた。
もう1人の女の子は頭を打っていたようで村の火が消える前に息をしなくなった。
村が燃え尽きて来ると村人はしだいに嘆き悲しんだ。それは次第に怒りに変わる。
「俺たちのことを思うなら戦争なんかするなよ!」
「欲しいなら奪うだけでいいじゃないか!なぜ殺すんだ!なぜ燃やすんだ!」
「返してよ、私の子を。」
カイが外へと誘導した女性の声だった。
その悲痛な言葉は胸に響く。特にシキとカイは戦争を起こした。
その時も同じようなことはあっただろう。
戦争を正当化することはできない。
ただ、黙々と癒し続けた。
感謝してくる者も多かったがそれが痛かった。
シキ達はその村人達を伴って同盟軍本拠地へと向かった。
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