不安


いつものようにキリルとシキは鍛錬に出た。

ラズリルの裏通りはいつものようにシーンとしている。
そこへ、二つの風が通り抜け、後に残るはふさふさの亡骸ばかりである。

最後のふさふさを叩き落し、キリルはシキをにやりと見る。
「やるな。」
「君こそ。でもまだまだだね。」
「そうだな。」
まだ、金色のふさふさを退治するには早すぎる、という自覚が2人にはあった。
目標があり、ライバルもいる事でシキとキリルの腕は、飛躍的に伸びていた。

そして、鍛錬後は、ふさふさの亡骸を集める。
一週間に一回ほど、ミドルポートに行くウォルターに預け、お小遣いを稼ぐのである。
300ポッチは子供にとって、大金である。
しかし、キリルもシキも無駄遣いせず、おくすりや、火の陣の玉などを買うにとどめている。
しかも、シキはその中なら、生活費を出していた。
ウォルターは受け取る気はなかったのだが、受け取らないとシキが消えてしまいそうなのでしかたなく受け取っていた。

しかし、宿に帰ってみると、ウォルターの姿がなかった。今日は昼にはもうとっくに帰ってきているはずである。

「ウォルターさんは?」
「さぁ、少し遅くなっているようですけど。」
セネカはあいまいにごまかす。

まただ、とキリルは思う。
時々、ウォルターは帰ってこなくなる。アンダルクやセネカやヨーンがいても不安になる。

「不安なの?」
シキはキリルを望みこむ。

キリルは不安がっていることを知られたくなくて、顔を背ける。
「僕は父が帰ってこないと不安だけどね。父が出かけるのは決まって戦争をしに行くときだ。生きて帰れるかわからない。だから不安だよ。」
シキは幼い頃から父が戦争に行くのに慣れていた。
だからといって不安にならないことはなかった。
だからこそ、父がいなくなるかもしれない、という不安をよくわかっていた。

「不安じゃない。」
キリルは意地を張る。シキの慰め方に不器用ながらだした答えだ。

「へぇ。」
「あー、信じてないだろ。」
「そうなことないよ。」
と嫌味の応酬をしているうちに取っ組み合いになった。

「まったく、これ以上すると晩御飯抜きですよ。」
セネカが怒鳴るまでその喧嘩は続いたのだった。





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