戦場の中で
「大丈夫か?」
劣勢のこの時に駆けつけてきたのはビクトールとフリック。
「勝負をかけたいのですが。」
そう、呼びかけたのはサキ。
「分かった。」
シキは短く答える。
そして間髪要れずに呪文を唱えだした。
「我に宿意志二つの相克なる力よ。目の前に立ちはだかりし敵を倒すため、すべてを滅ぼす炎の力、すべてを包み込む地の力・・・・」
それは二重呪文。大地の紋章と烈火の紋章の最上級呪文を組み合わせたもの。
広範囲に使える呪文の最強呪文。
今回は戦い、ということもあり、烈火と大地をつけていたのだ。
もちろん、優しさの流れの札など各種札はそろえてある。
それはさておき、この呪文を唱えるには少し時間がかかる。
その間、サキは猛烈な勢いでシキを援護する。
帝国軍はシキの唱えている術が焦土と知り、あせる。しかも、サキの防護を崩すことができない。
「おい、あいつを放せ。」
その声がしてすぐ、2匹の金色の狼が現れた。
それは帝国軍も同盟軍も関係なく人を食い殺そうとする。
「焦土。」
シキが唱えるとその辺り一体は紋章の火で燃え尽きる。
しかも自分の周りにいる味方を除いてだ。
ただ、サキが目の前で相手していた相手と、金色の狼は多少ダメージを受けているもののすばやい動きでサキとシキに向かってくる。
サキは目の前の相手を倒したが2匹の金色の狼まで対応できない。
魔法を使い終わったシキはその2匹の金色の狼をとっさに避ける。
が、避けきれずに、片方の金色の狼の牙を受けてしまう。
「シキさん。」
サキは思わず声を上げるが、それに答える余裕はない。
サキはシキが避けたほうの金色の狼と対峙する。
同盟軍の兵士にそれに立ち向かえるだけの兵士はいない。
「冥府。」
それはいつもと違い、簡略化された呪文。
それはシキに負担をかける。しかし、シキは何か、助ける力があることを感じた。
そして、闇の紋章より濃い死の力が目の前に形となった。
闇の力は膨らむ。その後には黄金の狼はいなくなっていた。
その力は同盟軍の兵士たちにさえ、恐怖を与えた。
兵士たちは動けない。
その様子を見てシキはそっと悲しそうに笑った。
「えっと、みなさん、後、お願いしますね。たぶん、ほとんどの帝国軍は倒れたと思いますので。」
そう言ってサキはシキをつかんで森の奥へと歩き出した。
サキも感じた、シキを助けた相手を探すために。
◇◆◇
カイは二人を待ち受けていた。
「あなたは誰ですか?見ていたのに手助けをしないで。なのにさっきは手助けしてくれて。」
サキの疑問にカイは笑うだけだった。
「サキ、彼は罰の紋章の持ち主だよ。」
黙ってついてきていたシキはそう答えた。
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