何かの始まりは雨の日が多いんだ。
そう言ったノアの言葉を思い出す。

願わくは、この雨が、彼にとって悲しみの始まりにならぬことを。

◇◆◇

テッドは雨の降る町を窓越しに見ていた。

初めて、マクドール家に来た日のことだ。
その日は冷たい雨が降っていた。ちょうど、秋は去ったけれども冬はこない、と言うような季節だった。
馬車に乗せられてそこから見るマクドール家は遠くから見えていた。

自分を拾った奴でここまで身分が高かったものはいなかった。
自分には窮屈かな?とは思う。
まぁ、窮屈なら出て行けばいい話だ。
何度も自分はそうしてきた。

「退屈かね?」
じっと窓の外を見ているテッドにテオは声をかけてきた。

「いいえ、珍しいものが多くてあきませんよ。」
「君は旅をしていたのだろう?」
テオはテッドが道中旅なれていたことを思い返して言う。
それにテッドは当然のようにして答えた。
「それでも珍しいものは珍しいですし、一度見たものでも久しぶりに見ると面白いものです。」
「ははは、君は私の息子と気が合いそうだ。」

その言葉にテッドは頭をひねる。まだあったことはないが、散々テオからのろけは聞かされている。
そのテオの子、確かユイって言った奴と今の言葉で気が合う、と判断されるとは思えなかった。
「どういうところで気が合うと思ったのですか?」
「そういうところもだ。そういう妙な質問を返すところとか、さっき、面白いと表現したところとかな。まぁ、会えば分かるさ。」
そう言って豪快に笑うテオにテッドは好感を持った。

マクドール家が見えてくると、ぱっと、屋根の上の何かが動いて窓から家の中に誰かが入ったようだった。
テッドは目を凝らす。
が、もう何も動かなかった。
ただ、動いたものは人で、その人と目があった気がした。

「どうかしたかね?」
テオは聞く。
「いえ、何でもありません。」
そう答えるしかなかった。

馬車がつくと同時に扉が開いた。
「父上、おかえりなさい。」
「あぁ、ただいま。」
迎えたのが、たぶん、ユイ、と言う子供なんだろう。
「テオ様、お帰りなさいませ。三日も帰宅予定日から遅れていて、坊ちゃん、ずっと窓を見てたんですよ。」
金髪の顔に十字の傷がある優しそうな目をした青年は、そう言って、乾いたタオルを二枚出す。
そして導かれるままに家に入ると、人数分の飲み物がテーブルに置かれていた。

「その子は誰?」
無邪気にその子供は聞く。
「窓から見てたんだろう?テッド、というんだ。今日からこの家の一員になる。こっちから息子のユイ、グレミオ、パーン、クレオだ。」
そう言ってテオはテッドを息子の近くに寄せる。テオは人数分の飲み物やタオルの枚数からそう推測したようだった。
ただ、テッドは思いついた。
「ヨロシクな。」
そう言って手を出す。そいつは驚いた顔をして、すぐに破顔した。
「ヨロシクね、テッド。」
握った手は氷のように冷たかった。多分、外に出ていたからなのだろう。

「お前、屋根にいただろ。」
いろいろまぁ、食事とか終わってやっと寝る段階になったときテッドは言った。
顔が驚いた顔になるのが面白かった。貴族なのに、この親子はどうしてこんなに感情豊かなんだろうか、と思ってしまう。
「目、いいんだね。内緒ね、怒られちゃうから。ね、もう友達でしょ?」
がすぐに片目をつぶって言ったそいつには呆れた。
「なんでお前と?今あったとこ、じゃねぇか?」
「親友の方がいい?うん、その方がいいね。あ、そうだ、僕はノアだよ。えっと父上とか他の人の前ではユイだけど、二人だけのときはノア、ね。」
グレミオがご飯ですよと怒りに来るまでそのやり取りは続いた。最後はテッドの負けだったけれども。
テッドは最後には押し切られて友達、ってところで妥協した。
・・・はぁ、疲れた。これがテッドの正直な感想だった。

これが、ノアとの出会い、だった。

◇◆◇

そして、その後、テッドはノアに連れ出されることになる。

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