海の祝福


フェリドの子に祝福をするためにナギは、ソルファレナに来ていた。

フェリドは、身分を隠しているが、群島諸国のオベル出身である。

身分を隠しているから、群島諸国に伝わる、村長や国長からの海の祝福を受けることができない。

だから、ナギは祝福を行うため、ソルファレナに来ていた。

来たものの、これからどうしようか迷ってしまった。まさか直接王宮に行くわけにもいかない。

とりあえず、街をうろうろすることにする。

街は思ったより混雑していた。
女の人が、よろける。

慌てて、ナギは、その女の人を支えた。
その手に、ごつい手が重なる。

横にいた女性の連れの大柄な男も、その女の人を支えたからだった。
ナギは、その人物に海の匂いを感じた。
二人が、フェリドとアルシュタートだと、何となく悟った。

「アル、大丈夫か?」
「えぇ。」
フェリドの問いにアルシュタートは頷く。

「妊婦さんだったら、気をつけないといけないよ。」
ナギは、二人を見つめて言った。

「よく妊婦とわかったな。」
フェリドは驚く。まだ、アルシュタートのお腹はそれほど、出ていない。しかも、体型を隠している。

「普通、分からない?」
ナギはキョトンとした。

フェリドとアルシュタートは、笑った。

そこへ、ガレオンがやって来る。
「フェリド様、アルシュタート様、また、勝手にお出になされましたな。」
「これが、最後のお忍びじゃ。」
アルシュタートは、つん、とそっぽを向く。

ナギは、その光景に目を細める。なんだかほほえましかった。

「祝福していい?」
唐突に告げられたナギのその言葉に、アルシュタートは頷いた。

ナギは、アルシュタートのお腹に手を当てる。
ファレナ王家の直系の女性に触れられる男性は、同じく直系の者か、夫だけである。ガレオンが止めようとしたが、フェリドは目でいさめた。

「流れる風は気の向くままに、巡る水は里に戻りゆく。産まれてゆく新たなる命に、海の加護があらんことを。」

フェリドは、驚いた。
群島諸国に代々伝わる、祝福だからである。

「お前は…いったい!」
「ナギ。」
その言葉にフェリドは、群島諸国連合の英雄を思い出す。

「あなたたちにも、海の加護があらんことを。」
そう言って、ナギは人混みにまぎれた。

「この子は、強い子になるであろうな。海の加護を受けたのだから。」
アルシュタートは、いとおしそうにお腹をなでた。

「そうだな。」
フェリドも頷く。

ガレオンも、二人の久しぶりの和やかな時間に、ナギという少年に感謝したい気持ちでいっぱいだった。
「さあさ、戻りますぞ。」

夕焼けが、長く、長く、彼らの影を伸ばしていた。



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