序章


それはある日ののどやかな昼下がり。同盟軍本拠地の端っこの方の野原でサキやユイたちはお弁当を広げていた。
色とりどりのおかずが整然と並べられたお弁当は、見た目は本当においしそうである。

「いただきます。」
の掛け声で真っ先に食べようとしたのは「熊」、もとい、ビクトールである。それを制するのは「青」ことフリック。
その横にはニナが張り付いている。

テンガアールはヒックスのためだけに特別に作った弁当を広げ、ラヴラヴっぷりを発揮している。
無理やり連れてこられたルックは不機嫌そうで、サスケを「ガキだね。」などといい、からかう。サスケはルックに組み付こうとするがルックに風で切り裂かれる。それをフッチが何とかしようとおろおろするのだが二人ともそれでやめるような性格ではない。

と、フリックがひっくり返った。ナナミの料理にぶち当たったのだ。
弁当を食べていた一同は一瞬引く。そんな雰囲気をものともせず、サキは経験でユイは勘でナナミの料理を避け、食べていく。
ただ、サキはまったく食べる気はないのだが、ナナミが、「これは私が作ったんだよ。」と言われたら、断れるはずもない。
サキは内心半泣きで、表にはうれしそうに、食べる。まぁ、慣れているため、フリックのように倒れるほどではないが。

フリックは倒れたところを目を輝かせたニナに看病されている。
サスケ、フッチ、ルックなどもナナミに薦めたり、運悪くぶち当たったりして、次々と倒れていく。

しばらくすると、座っているものは少なくなっていた。

「そう言えば、ノア、お前、もしかしてユイと一緒にいたやつじゃねぇか?」
酒を飲んで難を逃れていたビクトールは急にユイに話しかけた。ユイは今、ノアと名乗って、少女のように演じている。
「そうかもしれませんね。」
ユイは少し甲高い声を出し笑う。ユイはいつものように大きなフード付きの布を着ていて、微笑んだ、ということは分かっても、よくその顔は分からない。それでも、ビクトールはフードからみえるほんの少しの顔がユイに似ている気がした。

性格的なこともあったが。二人とも無邪気に腹黒い。
「お前はいったい何者なんだ?」

温かい風が吹き、どこかユイをはかなげに見せる。
思わずビクトールは少女をつかもうとしたが、ユイはおしとやかに、そしてすばやく身を引いたのだった。

そこまで近くにいて、ビクトールがユイに気が付かないのは声の高さや、その雰囲気、そして、赤い服を着ていないからだろう。
それほどまでにユイ・マクドールの赤は人々の心に残っていたのだ。

「昔ばなしをしましょうか。」
ユイは少し考えてビクトールに言った。今、リーダーであり、赤い服を着ているサキもまた興味津々、という風に耳をそばだてている。

普通の人から見たら、サキのほうがユイに似ているというだろう。
特にその強さ、目の輝きが。

「昔々、一組の双子の兄妹がいました。昔から、双子は災厄をもたらすものとして嫌われていました。それ以上にその双子は災厄をもたらすものとして嫌われました。それは、その双子が生まれたとき、一つの星見の占いの結果が出たからです。双子が二人そろった時、そこにあるのは、滅びの道だけであろうというものでした。やはり、将軍家としては残しておきたいのは男の子です。妹は国に危害を与えるものとして、本当は殺されるはずでした。しかし、この双子の両親はこっそり信頼置ける人にその妹を預けたのでした。」

それ以上待ってもユイは話そうとはしなかった。
フードで隠れた目は暗くてうつろなものに思えた。

しばらくして、口を開いたのはビクトールであった。
「それは、お前のことか?」
「さぁ、どうでしょうね。」
ユイはあいまいに微笑むだけであった。

◇◆◇

ミニピクニックが終わって、サキはこっそり本拠地の廊下にいたユイに近づいた。そして、体を寄せ付け、誰にも聞こえないようにして尋ねた。
「ユイ、あれは本当のこと?」
「君が思いたいようにに思えばいいよ。僕がノアって名乗るのはノアを忘れないためだよ。」
いつもの元気な笑い方ではなくてどこか遠くを見るような雰囲気でユイは言った。

サキは納得していなかったが、それでも自分が立ち入るべきでないことが分かっていた。

そのあと、誰も聞いていないことを確かめてからユイはそっとつぶやいた。

「妹は確かに滅びの道をこの国にもたらそうとした。兄を守ろうとして、たくさんの人を殺そうとした。兄は妹を殺さなければならないところまで進まされた。まさに、滅びの道だ、妹にとっての。」
そう言って、ユイは自嘲げに笑った。

そしてあの時のことを思い出していた。

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