軍師をやめたもの
手に残るのはイヤリングの赤。
そして、まぶたの裏に残るのはオデッサの血の色の赫。
それは、はじめにノアから取れなくなった赫だった。
はじめて?その言葉に頭をひねる。
初めてじゃない。そうささやく声がする。
◇◆◇
ユイは、ビクトール達とともにセイカに向かっていた。
クワバの城塞も、無事?通り抜け、後はまっすぐ、セイカに向かうだけだった。
坊ちゃんごめんなさ〜い、と泣き喚くグレミオを引きずっていたけれども、だ。
◇◆◇
セイカにつくと一人の男が村の入り口辺りにいた。
「おい、マッシュって奴の家を知っているか?」
そう、ビクトールが聞くと男は、この上ですよ、と答えた。
この男こそマッシュなのだが、みんなが行く中、一人だけじっとマッシュの方を見ていたものがいた。
マッシュには、彼がマクドール家の嫡男、ということが分かった。
彼は皆に呼ばれ立ち去ろうとした。しかし、ユイは立ち去る直前、一瞬だけ振り返り、マッシュに「お待ちしております。」と言った。
マッシュは呆然としていた。
屋敷に戻る気はなかったが、ユイの事が気になって、マッシュは家へ戻ることにした。
どうなるか予想したどおりだった。ビクトールたちは怒った。
「やい、お前がマッシュだろ。ふざけたまねをしやがって。」
その中で、少年だけが丁寧に礼をした。彼だけが予想の範囲を超える。
「はじめまして、マッシュさん。」
その後、ユイの取り直しで、態度を柔軟させたビクトールたちは、マッシュと話し合いをする体制になった。
ただ少年だけがまた、あらぬ方向を見ていた。
村の入り口の方だったと思う。
ユイのことばかり目が言っており、ビクトールたちの問いに無意識に答えていたが、どうやら言い負かせたようだった。
「ち。明日また来る。」
のらりくらりと対応するマッシュに怒りが湧いたのだろう。ビクトールの顔は怒りに満ちていた。
そして、また、立ち去り際に心に残る一言をユイは言った。
マッシュの心に、一筋の波が立った。いつか、荒海になるかもしれないと思うような力強い波だった。
「後悔しても知らないよ。」
すとんとマッシュの胸に落ちた、その不吉な言葉は現実となる。
いつの間にか帝国兵たちが来て宿屋の周りを取り囲んでいた。
「通りすがりの正義の味方。」
そう名乗って、ユイは戻ってきた。
自分たちの追っ手なのかもしれないと思って、帝国兵たちを倒してからマッシュの家へ再び行こうと思ったのに、帝国兵たちはユイたちは無視をし、マッシュの家のほうに行った。
マッシュをものにするチャンスだった。
「バカの一つ覚えしかできない帝国兵たち、正義の味方の我らが成敗してくれる!!!」
茶目っ気たっぷりに言って、あっという間に少年は周りの全員を倒した。圧倒的な力量の差だった。
戦闘は終わった。ユイは何も言わず、つかつかとマッシュに進みよる。
そして、マッシュのほっぺたをのばした。
マッシュは何かを言おうとするが、当たり前だが、ほっぺたをそんなことされたら何もいえない。
「ば〜か。自分が教えてる子達ぐらい守れないなら、逃げたら?君がいなきゃ、価値ないんだし。ま、見せしめにされる、って可能性はないってことはないけど、黙ってみてるよりまし、だろ?それとも、マッシュは戦争をする気だったの?ま、一つ忠告。守りたいなら、戦えば?場所、提供してあげるよ。」
ユイはそう言って、オデッサのイヤリングを乗せた手を差し出した。
マッシュはオデッサのイヤリングを受け取った。
「あの娘は私のことをなんと?」
震える声で尋ねる。柄にもなく、緊張していた。
「マッシュという男と。」
クレオが答えた瞬間、少しだけマッシュは下唇をかんだ。
「あの娘は私のことを許してはくれなかったのですね。」
ユイはマッシュの頭をたたく。
「勝手に人の気持ち、決め付けんなよ。もしかしたら、オデッサはお前が帝国兵に囚われたり、敵対することになったりするかもしれないから、私情を捨てた、って可能性もあるだろ?」
その言葉を聴いた時、マッシュは彼を軍主にしよう、と思ったのだった。
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