二つの顔


一人は立ち止まったままだった。涙を流し、前に進めない。
もう一人は、負の感情を捨て、前に進むことしかできないものだった。

◇◆◇

本拠地を手に入れてから、もう、二週間もたった。コウアンのレパントを仲間に引き入れ、帰ってきたところだった。
その夜はパーティが開き、そして、ユイは暗殺者に殺されようとした。

駆けつけたマッシュたちが見たものは真っ赤な手を見つづけるユイの姿。

「殺してはいない。まだ、この周辺に潜んでいる可能性がある。それに、見張りが倒されているかもしれない。」
そう言って、ユイはあたりを探させた。倒れている見張りは発見されたが、それ以外は何も発見されなかった。

見張りがつき、抜け出せなくなった軍主の部屋でユイはノア、とつぶやいた。
いつもならばユイの妹のノアが守っていて、誰もユイには手が出せないはずなのである。

たまたまそれを見ていた軍師は読唇術で彼の言葉を聞き取ったのだった。

◇◆◇

「ユイ様、ノア、とはどなたのことでしょうか?」
マッシュはユイを軍師の部屋に呼びつけ、グレミオたちには外に出ているように言った。
「僕の妹。あなたなら知っているんじゃない?あの、予言を。」
そう言ったとたん、マッシュは理解した。

マクドール家に双子が生まれたとき、一つの星見の占いの結果が出た。それはその双子の妹はこの国と兄に血にまみれた、滅びの道をもたらすであろうという星見の占いの結果だった。妹は国に危害を与えるものとして、殺されたはずであった。

その予言は軍師と言う立場で知っていた。予言は、機密であった。
他国への弱みになってはいけないからと。

ただ、マクドール家の家人は許されないこと、と知りながらもその双子の妹を捨てられなかったのだろう。
そして、マッシュは星見の結果の続きを知っていた。

ただし、兄は殺してはならぬ。彼は運命を変える切り札。
再び、滅びの運命がきたとき、それを救うのは彼であろう、という続きを。

「話はこれだけですか?」
ユイは首をかしげて聞く。出会ったときとは違い、ユイはマッシュに丁寧に話しかけた。
何かから、防御するように。

「いえ、あなたの妹さんはいつもあなたの傍についていられるのですね?それが昨日いなかったのですか?」
ユイはにこっと笑う。
「えぇ、そうです。心配してたことはなくて、ただ、ノアと私の馬が熱を出していたから世話を見ていただけのようです。」

マッシュは元から正していた姿勢をさらに正した。
「それともう一つ。あなたはもう一つの人格を持ってますね。」
「あれ、ばれちゃった?記憶とか一緒だからばれたことないのに。さすが兄妹、かな?」
ユイのあっさりした調子に戸惑いを感じながらも気になったことを聞く。
「オデッサも知っていたのですか?」
「うん。これで、気づかれたのは3人目だよ。自分から言った人も含めて知っているのは5人だよ。えっと、僕がノア。ため口のほうね。もう一人はユイだよ。」
そう言ってノアは頭を下げたのだった。
「あ、僕の名前は妹からとったものだからね。まだ、妹と会ってないときに。下町であったんだ。そうだ、妹はちゃんと今はそばにいるよ。呼ぶ?」
そう言って鈴を鳴らすとユイそっくりの顔をした少女が出てきた。
「ノア、ばれちゃったみたいなんだ。この子がノア。ノア、こっちがマッシュ。仲良くしようね。」
そう言ってノアは一方的に進め、二人を握手させた。マッシュはただ呆然としているのだった。

◇◆◇

一人は立ち止まったままだった。涙を流し、前に進めない。かの者の名はユイ・マクドールと言った。

もう一人は、負の感情を捨て、前に進むことしかできないものだった。かの者は自らノアと名乗った。彼の名もまた、ユイ・マクドールだった。
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