これから
マッシュにばれてから幾日かたった。ユイは悩んでいた。
マッシュはユイを軍主という立場から下ろす気はなかった。
いいのかな、とは思ったが、別のことでいっぱいだった。
今、気になっていることは、妹のノアのことだった。妹は暗殺者によって大怪我をしていた。
そして、守れなかったことをユイに謝り続けていた。
誰か親しい人が死ぬ可能性がある、それが妹だということは大いにありえることだった。
もう一つ悩みがある。それは、妹の性格についてだった。
妹はユイを守ること、そしてユイの意に沿うことが1番だった。
そして、後は自分の感情のままに行動する。ユイが一番というのはおいといて、感情のままに動く、ということが問題だった。
それはクワンダ・ロスマンとの一騎打ちが終わり、彼が操られていたとわかったときのこと。
妹のノアは彼を殺そうとした。
すぐに気が付いたユイが止めなかったら彼は死んでいただろう。
ノアは何も言わずに去っていった。
その時、走りこんできた兵に呼ばれた。
「ユイ様、フリックさんがいらっしゃったようです。」
一瞬考え込んだが、すぐにオデッサの恋人だった彼と気づいた。
「オデッサはどこだ!!」
その声はここまで響いてきた。うざい、と思わないでもなかったがしょうがないから広間へ行った。
「オデッサはどこだ!!」
フリックは繰り返した。
「オデッサは死んだよ。」
「オデッサは死にましたよ。」
ユイとマッシュの声が重なった。
フリックは顔色を変えた。フリックとマッシュは言い合っていた。ユイは見ていただけだった。
フリックは「お前なんて認めねぇ。」そう言って出て行った。
ユイはただ見ているだけだった。
「ユイ様ですね。」
マッシュが低く小さな声で尋ねてくる。
先ほど、フリックに応えたのはユイではなくてノアだった。ノアは今起きている。
「変わりましょうか?」
ユイは尋ねるがマッシュは頭を振った。
「明日、頭が冷えたフリック殿を迎えに行くときには出ていてくださればいいです。」
その言葉にユイは微笑んだ。
「ありがとうございます。」
◇◆◇
ユイとノアの違いは静と動、といえるかもしれない。
ノアはフリックに会うなり彼の両ほほをひっぱたいた。
「何、甘えたことを言っているの?」
フリックは固まった。仲間に入れてほしい、彼女の残した思いのためにも、そう思ったのだが、彼の言葉はぐさりと刺さった。
「オデッサのこと考えるならあの時、暴言を吐いて逃げるべきじゃなかった、そんなこと分からなかったの?」
何も言い返せなかった。ノアはそんなフリックにため息を吐いた。
「つまんない。オデッサもバカ、だよね。」
「オデッサはバカじゃない!!」
フリックは声をあら上げた。
「ほら、そうやってすぐ声をあら上げる。僕を脅せると思っているの?」
その時やっとビクトールは間に入った。
「おいおい、フリック、もうちょっと大人になれ。相手はガキだぞ。ユイもな。」
さすがにフリックの目の前でユイにフリックをからかうな、とも言えず、言葉を濁す。
フリックはやっと大人しくなった。
「悪かった。俺も協力させてくれ。」
「うん、あ、そうだ、フリック、君の副隊長の地位、まだあるからね。」
ノアは急に無邪気になったように言った。
フリックは呆然としていたが周りははいつものことだ、として取り合わなかった。
いつも、そして誰もノアのペースには勝てないのだ。
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