ついをなすもの
目の前にあるのは血。
真っ赤に燃える血。
これは誰のもの?
◇◆◇
マッシュが軍主の部屋に行ったとき、ユイの姿はなかった。
嫌な予感がする。
どこへ行くよりもまず船着場へ行った。
そこには船が1隻、足らなかった。
手漕ぎの簡単な船が無い。
マッシュはしばらく考え込んだ後、船の一つに乗り込んだ。
◇◆◇
夜の湖は暗く、深い。
その湖の中を一艘の手漕ぎ舟だけが広い海を進んでいく。
「初めてじゃないね。」
ユイの一つの人格の方のノアはそう尋ねる。
「私はだめ、といったはずだ。」
「で、でも。」
妹の方のノアは声を上げる。
「もう、人殺しをしてはいけない。普通の女の子として、暮らすんだ。」
「嫌よ、ユイを守るだから。」
夜の湖はここを二人っきりだと自覚させ続ける。
「なら、戦場と暗殺者だけにするんだ。」
「いやよ。私は、ミルイヒのことを許せない。わたしはミルイヒを殺すの。ユイ、ユイも殺したいでしょ」
「私はミルイヒに生きていて欲しい。」
沈黙が辺りを占める。
「でも、でも、私は。」
妹の方のノアは何かを言おうとして戸惑う。
「ごめんなさい。ごめん、嫌いにならないで。ユイ、ユイ、すきだよ。」
「ボクも好きだよ。」
それはユイの言葉。
「えへ、そうだよね。うん、ユイ、だーいすき。」
「・・・・・・」
沈黙。それを不審に思い、妹の方のノアはユイに言った。
「ごめん。」
そういったのはノアだった。沈黙を返したのもノア。
そう言ってユイのもう一つの人格のノアは妹のノアにとりだ出したナイフを切りつけた。
◇◆◇
マッシュが駆けつけた時にはもう遅かった。
ノアは息を引き取っていた。
「ノア様。」
「マッシュ、このことは内密に頼む。」
マッシュが何か言おうとするのをノアはさえぎる。
ノアとマッシュは黙々と今来た湖を戻った。
マッシュの乗ってきた船で。
ノアは暗い湖のそこで漂っている。
二人の乗ってきた船の破片とともに。
沈黙だけが残った。
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