偶然
コウという少年が言った言葉がサキは妙に気になった。
「あのね、あの奥にある池に幽霊がいるんだよ。しかも人間をたぶらかせているんだ。」
いつもだったら幽霊なんてを信じていなくて、笑って終わらせていただろう。
でもなぜかその時は幽霊って言うものを一度見たくなって、サキは幽霊がいるところへ行ってみたくなった。
とはいっても、ナナミは幽霊といっただけで泣き叫び、わめくだろう。
◇◆◇
「ねぇねぇ、ナナミ、ここに僕がいるんだって。」
サキは何気ない風にナナミに話しかけた。
「え、サキがいるってどういうこと?」
「うぅ〜ん、ほらいたじゃん、ホイっていうやつ。僕の偽者。」
「え、また偽者が出たの!」
ナナミは驚いたというように大きく手を広げる。
「って言っても自分では名乗ってないらしいけど。」
「え?」
「コウって言う子が言ってたんだ。」
サキはあくまで何気ない風に言った。
「サキの偽ものかぁ。見てみたいなぁ。でも、あそこの池、顔に傷のあるおじさんが通せんぼしてたんだよー。」
ナナミは頬を膨らます。
「ねぇ、行って見ない?。」
「え、でも、通せんぼしてるよ。」
「大丈夫だって、コウがだましてくれるから。」
いつになく積極的なサキにナナミは戸惑いながらも同意した。
◇◆◇
「おぉ〜い、そこの金髪のお兄ちゃん、助けてー、山賊がいるの〜。」
コウの声がして、金髪の兄ちゃんことグレミオはその声のするほうへ走っていった。
それを確かめてサキとナナミは池まで進む。
「君たちは?」
振り返りもせず、釣りをしていたその人は言った。
その人物は自分より小さいようだったが、大きな布にくるまれていてよくは分からなかった。
ただ、まったく気配がなかった。だからコウは幽霊と勘違いしたのだろう。
忍者かな?とサキは思ったが、何か違う気がした。
「僕はサキ。こっちはナナミ。えっと、あなたは?」
サキは声をかけた。
「僕はユイ。君たちがいるってことはグレミオはどこか消えたみたいだな。グレミオがいないうちにどこか行くか。」
その子供はそう言って伸びをした。
黒い髪と黒い目。そしてちらりと布の奥からのぞく棍。特にその黒い目が印象的だった。
話しかけることを忘れ、サキはその少年を見つめる。
「えっと、この村からグレミオに追いつかれないように逃げるとしたら・・・・・・、やっぱり船だな。」
そう言ってその少年は立ち去ろうとした。
サキとナナミたちのことは眼中にないようであった。
「大変です〜。コウ君が山賊にさらわれました。」
ナナミとサキは顔を見合わせた。
「それホントですか!!」
「ホントですよ、この目でちゃんと見たんですよ〜。」
ナナミとサキは再び顔を見合わせた。コウが一人で山に入ったのはサキたちのせいでもある。
「助けないと。」
「助けなきゃ。」
二人の声はそろっていた。
「ところでコウって誰だい?」
ユイは不審そうに尋ねたのだった。
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