君に届かぬ声



ノアは完全に表情がっぽっかり抜けていた。

「なぁ、笑ってくれないか?ダメなら、泣いた顔でも、怒った顔でもいい。そんな顔、するなよ。一生のお願いだ。」
ノアは泣くことができない。
だから、必死に笑おうとした。
「ずるいよ、テッド。」
でも、笑うことはできなかった。ようやくできたのは口を尖らすことだけ。

それでも、テッドはまぶしそうに笑った。

「許してくれ・・・俺が・・選んだことだ・・・。」
「テッドのせいじゃない。」
ノアはきっぱりという。

「こんどこそ・・ほんとうに・・・お別れだ・・・・元気でな・・・・俺のぶんも生きろよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「テッドの分なんて生きれないよ。300年も生きてきたくせに。」
最後まで、必死にノアは口を尖らせて文句を言った。

そんなノアをテッドはうれしそうに見た。
「レン。」
テッドはささやく。ノアは泣きそうになった。
結局泣けなかったけれども。

テッドの体から力が抜けていった。
ノアはテッドの体を抱きしめた。
まだ温かく、死んだとは思えなかった。

「生きて傍にいてよ。」
その言葉はテッドに届くことはなかった。

ノアは生と死を司る紋章が疼いた気がした。

◇◆◇

ノアにユイがいることを気づいたのは何人もいるけれど、テッドだけがユイの正体に気がついた。
生と死を司る紋章を持っていたからだということが、今なら分かる。

生まれたのは姉と弟の双子。ユイの兄にあたる人物は別にいた。

双子が二人そろった時、そこにあるのは、滅びの道だけであろう。
ただし、兄は殺してはならぬ。彼は運命を変える切り札。
再び、滅びの運命がきたとき、それを救うのは彼であろう、と予言された兄当たる人物はレンという少年だった。

レンは庶子だった。ユイとノアが生まれる一ヶ月前、生まれた。
父は、たぶん、母を愛していた。
レンとユイはそっくりだった。テオですら間違うほど。
ノアとユイが姉と弟だという事実は隠された。両方殺せといわれる可能性があった。

そして、ノアを送り出し、ユイは自宅から出ることはなく、グレミオに育てられた。
ユイは名前さえ、呼ばれることはなかった。
だから、レンはユイの名前を返し、自分の名前をノアと名乗った。

レンはユイと名乗らされ、ユイの代わりとなった。
ユイの母はレンを嫌った。そして、悲劇は起こった。

ユイの母はレンを殺そうとし、庇ったユイを逆に刺した。

ユイはその時死んでしまった。ユイの母は錯乱した。
だから、レンはユイを掴み取った。
気がついたら、レンの体にユイは宿っていた。

ユイはレンとは別の人物であることにテッドだけが気がついた。
そして、テッドはレンの名前を知りたいといった。

はじめて、レンが存在したことを知ってもらえた。
テッドは、ノアと呼ばず、レンと呼ぼうとした。
でも、それは許されないことで、周りに誰もおらず、ユイも眠っている間その時だけ、という約束をした。



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