泣けない子供



竜洞騎士団からの協力ももらった。
テッドは死んでしまったけれど、もう失うことはないはずだ。

「お前はなぜテオ様を殺したのだ!」
応えられなかった。

「テオ様を憎んでいたのか?」
首を振った。憎んでいるわけがなかった。
好きだった。
テッドも、父上も、グレミオも、オデッサさんも、ノアも大好きだった。

「そうか。」
その時、周りが赤く染まった。

◇◆◇

火が燃え盛っていた。
火のめぐりは確かに早い。
油をめぐらせてあったみたいに。
そこまでする気はなかった。しかも、まだ、僕たちは中にいるというのに。

ソニアが向かってくる。
胸騒ぎがする。
半ばパニックになりながらも、表面上は冷静に、そして体は無意識に動いていた。

ノアたちは急いで砦を出た。
シャラザードの船着場ではマッシュがサンチェスに刺されて倒れていた。
流れるのは赤い血。

何があったのかはよく覚えていない。
でも、瞬きの手鏡を使って、帰ったのだろう。

いつの間にか本拠地の医務室にいた。

「治療は終わりました。後は安静にしていてください。」
リュウカンの言葉にノアは頷く。

「すみませんが、リュウカン殿、ユイ様と話したいのですが。」
リュウカンは顔しかめたが、

「申しわけありません。ノア様は血や火が嫌いでしょう?」
「そんなことは、関係ない。」
血が嫌いだと、誰にも言ったことはない。
それでも、マッシュは気づいていたんだろう。

「それでも、申し訳ありませんでした。私は、あなたの心までは守れなかった。」
「守られるほど弱くはないよ。」
「グレックミンスターに行ってください。」
ノアは頷いた。
ノアの心よりマッシュはトランの民を思った。
自分の生死より、トランの民のことを選んだ。

誰よりも、この国の民のことを思っていたのはマッシュである。
ならば、自分は答えるだけである。

「申し訳ありません。」
「許す。」
ただ、一言、それだけを言った。
「ありがとうございます。」
本当なら、マッシュは許して欲しくはなかっただろう。
根本的なところで主を裏切ったのだ。
でも、許せないとはいえなかった。
だから、マッシュは感謝を示した。

泣ければどんなに良かったか。
初めてそう思った。




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