守人



宿星だからグレミオは帰ってきた。
今さらだと思う。グレミオの好きなユイはもうすぐ、いなくなる。
だから言わなければならなかった。

「僕はお前の坊っちゃんじゃない。お前の好きな坊ちゃんはいなくなる。」
グレミオと二人っきりになった時、ノアはグレミオに言った。
恐ろしいぐらい凪いだ目だった。

◇◆◇

それはとてもとても昔。
グレミオはユイと名づけられたが呼ぶことを許されない少年と、名前を奪われユイと名乗らなくてはいけなくなった少年に出会った。
グレミオはユイを坊ちゃんと呼ぶことにした。

「あなたの名前を教えてください。」
グレミオはレンに向かって言った。名前を奪われた少年をユイと呼ぶには抵抗があった。
「僕の名前?」
「それまで、外で暮らしていたというなら、名前があったんでしょう?」
「…もう忘れてしまったよ。」
そう言って、レンは逃げ去った。レンはグレミオに懐くことはなかった。
ユイが死んでしまって、レンがユイの身に宿ってからは、レンはグレミオの前に姿を現すことすらなかった。
テオとグレミオ以外、生き残ったのがレンの方だと気がつかなかった。
孤独なまま時が過ぎて、レンはノアと名を変えてようやく前に出ることができるようになった。

◇◆◇

「それはどういうことですか!」
驚いてグレミオは聞く。ノアは冷たく笑った。
「そういうことだ。」
ノアはそれだけを言って去っていった。
でも、その顔は悲しそうに見えた。

グレミオはノアと会おうとしたが、見事に避けられてしまった。
そして夜が来た。
グレミオの部屋の戸が叩かれた。
「坊ちゃん。」
そこにはユイがいた。体が冷え切っている。慌ててグレミオユイを毛布に包んだ。
「ノアがようやく眠ったから、だから来たんだ。」
にっこりわらってノアは言った。
「あの、本当ですか?坊ちゃんが消えてしまうなんて信じられません。」
「ごめんね。でも本当。僕がいることはノアに良い影響を与えないから。」
ユイは悲しそうに微笑む。

ノアとユイはまったく性格が違う、そう言われてきたが、感情に不器用なところは彼らの父親に二人ともそっくりだった。

「ノアは僕の母のことが好きだったよ。だから、僕を引き止めた。でも、母はノアを殺そうとした。僕を得るために。」
初めて聞く事実にグレミオは驚いた。
「だから、ノアは母を殺した。グレミオ、僕のように思えないのは分かる。ノアのことを頼む。」
「坊ちゃん。」
「大丈夫、ノアはグレミオのことが好きだよ。」
その好きは、グレミオ自身が好きなわけじゃなくて、ユイのことを大切に思っているからだけど。

その日、一晩、ユイとグレミオはノアのこと、解放軍のこと、そんなことを喋り尽くした。





back