偶然


「コウ君は泊まっている宿のお子さんですよ。」
グレミオはのほほんと答える。緊張感がまるでない。
「で、誘拐されたって?」
ユイもあまり緊張感がない。
「あ、そうです。」
ナナミとサキは出鼻をくじかれた気がした。
「助けに行きましょう。」
「そうだね、事情を聞きに宿に行こうか。」
ユイはそう言って歩き出した。

そしてつっ立っているサキの横を通り抜けるとき、
「なんで、君みたいなお偉いさんがここにいるんだろうね。」
とぽそっとユイはささやいた。サキが同盟軍盟主と見抜いたのだろう。
サキはお前もだろう、と見返した。
が、ユイは気にしなかった。

サキとナナミが宿に行くと、そこには泣き崩れるエリという女の子と心配そうな宿屋の主人がいた。他にも村長や村人がいる。
助けに行くと、逆にコウが危ないとか、山賊が復讐しに来るかもしれないから、おとなしく身代金を払う方がいい、という意見が多数を占めていた。

無事に帰ってくるか分からないのに?と思ったが、サキは口に出さなかった。
そして、名前の知らない少年がどうするのかな〜とぼんやりと見ていた。

ふいに、サキはまがまがしい気配を感じた。
顔を上げると少年から闇の紋章に似た紋章が浮かび上がっていた。

「早く行かないと、コウって言う少年死ぬよ。」
ユイは宿屋にいる人みんなに聞こえるように言った。
「それはいけません、早く助けに行きましょう。」
誰もそれを止める暇すらなく、二人は宿屋から消えた。

サキとナナミはユイたちを追いかけた。そしてユイとグレミオに声をかける。
「僕たちも一緒に行きます。」
「私たちも一緒に行く。」
サキとナナミははっきりした声で言った。その声は辺りに響き渡る。
グレミオは驚いたようにサキたちを見たが、ユイはやっぱりという顔をしていた。

「よろしく。」
「がんばろうね。」
サキとナナミの無邪気な言葉にユイは少しだけ笑みを見せた。
「あぁ。」
和やかな雰囲気が流れたが、グレミオだけは少しぴりぴりしながらナナミとサキに危ないですよ、と忠告した。
もちろん、ナナミとサキは引き下がる気はさらさらなかった。

しばらく走ると山賊が逃げ出してきているのが見えた。ユイが走る速度が上がったと思ったら、いつの間にか山賊につめより、眼前に指を突き出していた。
「コウ、って少年を知らないか?」
そう問いかけるユイは先ほどソールイーターを発動したときと同じように冷ややかだった。
「し、しらねぇよ。」
がたがた震えながら山賊は言う。
「ほんとうにか?」
山賊は、ユイの顔を見て、笑顔ほど怖いものはない、と思った。
「コウって少年は、ワームがやってきて苗床にされそうになっている。」
ワームはこの時期成体になり、人間を苗床にして子供を生む。
「何も持たずにここから去れ。そして、再び帰ってくるな。」
サキは命令口調で言った。サキも怒っていたので、ユイばかりに脅迫をさせるのは面白くなかった。

「わ、分かった。」
山賊は逃げ出していった。まぁ、帰ってくることもないだろう。何しろワームがいるのだから。
「まずは、邪魔なワームを倒さないとな。」
サキとユイは再び走り出した。

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