選択肢


シキは、真っ暗な牢屋の中ドアに寄りかかって目を伏せていた。自分の甘さに歯噛みしながら、何も聞き逃さないように。

◇◆◇

ソニエールの監獄をよく知るものは少ない。一度だけシキは父に連れられて見たことがあった。監獄もまたこの国に必要なものだからと。
ソニエールの監獄はミルイヒの直轄地にあったため、ミルイヒの兵以外は基本的に入れない。下手に内部がわかると、ソニエールの監獄に押し入る者もいないとは限らないという面もある。解放軍の中には元帝国兵は少なくないが、その中でも、構造を知っているのは帝国5将軍のクワンダとシキだけだった。
ソニエールの監獄は複雑でその上歩く範囲を間違えると仕掛けが起こる装置などもあった。それを絵に描いて説明しようとしても、床自体が斜めだったりするところもあり、ややこしい。
クワンダの守りは、今の解放軍になくてはならないものだ。
かなり長い協議の結果、シキが行くこととなった。
それが悲劇を生むことを知らずに。

◇◆◇

グレミオが自分を犠牲にして、僕らを助けようと決心していることに、シキは気がついていた。
死ぬわけにはいかなかった。今、ここでシキが死ねば解放軍は散り散りになるだろう事は容易に想像がついた。人を率いるほどの器を持ったものが少なく、また、これから、帝国兵を味方に引き入れなければならないことを考えると、シキ以外に適任はいなかった。
一緒についてきていたビクトールやフリックは解放軍の要だ。そしてリュウカンも次の戦いで必要だった。
だから、シキはあえて何も言おうとせず、ただ、見送った。グレミオの顔をまともに見れなかった。
そして、グレミオは扉の向こうへと消えていった。

◇◆◇

「すまない。」
それしかシキは言えなかった。
じっと扉に寄りかかり、グレミオの声を、立てる音を聞いていた。
ただ黙ってじっと。何も聞こえなくなってもじっと耳をそばだてていた。

何日たったかわからなくなった後、マッシュが自らソニエールの監獄に軍隊を連れてきた。
何が何でもシキを取り戻すためだった。
マッシュもまた、シキがいなくなる危険性を分かっていた。だから、わざわざ、一番先頭に立って出向いてきた。

扉の向こうには服しかなかった。
何の感情もわいてこなかった。
ただ黙ってその服を見つめた。
シキは選んだ。グレミオの死と解放軍の未来と天秤にかけて。

マッシュはその服を見て大体の事情は分かった。
マッシュは、シキを励ますことはできなかった。彼は自身で選択したのだから。
ただ、その選択をさせたのは、解放軍の意思でもあることを告げるために言った。
「今はなにも言いません。ただ、軍主と言うことだけを忘れないで下さい。」

その事件を境に、シキも、マッシュも自分の信じる道を進む覚悟を決めた。一番大切なのは、この国を立て直すことだと、決めたのだった。過去のしがらみよりも、自分はもとより、そばにいてくれる大切な人の命よりも。


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