結末
シキはじっと目の前にあるグレミオの斧とマントを見ていた。
決意は揺るぎようはない。
ただ、その揺るぎがまったくでない自分が嫌いだった。
何も弱点がない自分、何であろうとも弱点にならない自分が嫌いだった。
すべてを捨ててしまえる自分が。
「レックナート様。」
シキは静かに言う。
すると目の前に光が現れた。
「あなたに聞きたいことがある。」
「何でしょうか?」
レックナートはいつもの神々しさを背に尋ねる。
普通の人なら蹴落とされてしまうであろうその雰囲気に対してシキは無表情に立っている。
「明日、もしウィンディが紋章の力を使ったとしたら、その時あなたは手伝っていただけますか?」
「約束しましょう。」
レックナートは約束した。
しかし、式の言葉はそれだけでは終わらなかった。
「ルックに聞いたんですけどね、108星は必ず一度は生きてそろう、という伝承があるらしいね。」
「それが何か?」
レックナートは顔色を変えずに尋ねたが、内心困惑していた。
「グレミオは生き返るのかい?」
レックナートはしばらく逡巡した。
「ええそうですね。」
今、言ってもかまわないはずだ。少し早くなるだけのことなのだから。それでもなぜかレックナートは胸騒ぎを感じた。
「それはあなたの紋章の力で?」
「そうです。」
シキは自分が今から言おうとすることに嫌悪感を感じたが、おくびにも出さず口を開いた。
「私は、グレミオを生き返えさせるよりも優先してほしいことがあります。」
レックナートはほんの少し表情を変えた。
いつも穏やかな彼女にしては珍しいことであった。
「報告が入ったんですよ。」
シキはレックナートが入ってきたときと同じように無表情に続ける。
「ウィンディが紋章の力を使ってモンスターを呼び出しているという。ウィンディより弱いあなたが彼女が一晩中呼び出したモンスターを異界に返すことができるのですか?ルックやヨシュアが手伝ったとしても。」
「それは分かりません。」
「だから私はできるだけ確実にしたい。だから、その分の力をまわしていただきたいのです。私がこの紋章を使ってもいいのですが、モンスターと兵士の区別がつけませんから。あくまでこれは人の戦いですし、民も納得できないでしょう。」
レックナートはシキに恐ろしさを感じた。
「あなたはそれでよいのですか?」
「もう決めたことです。」
「分かりました。」
レックナートはそれだけしか答えられなかった。
「心配しなくても、私はこの戦争が終わったら消えるつもりです。」
レックナートが消える直前、彼女の不安を見抜いたようにシキは言ったのだった。
シキはレックナートが消え、彼女の視線がないことを確かめてから一度だけそのこぶしを壁に打ちつけた。
軍主の部屋はどの部屋からも離れているのでその音は誰にも聞こえない、そのことを確認してだった。
シキの手からは血が出る。
シキは冷静におくすりをつけた。
シキは、軍主の顔になっていた。
back