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英雄の名


「僕は彼らと約束した。大丈夫だよ、これぐらい乗り切れるよ。」
サキは力強く言った。

今日は病院の子供たちの診療所へ行く予定であった。しかし、突然ハイランドが進軍してきたのであった。
とは言え、予想はできたことだし、守りはできる限りのことをしている。今回のことは戦争がぬるま湯にならないようにするためのものであろう。
とはいえ、戦争は戦争である。
それでもサキは行くことを止めようとは思わなかった。

すべて指示を出した後、サキはビッキーの元へ行こうと思った。
シュウに見抜かれてビッキーをらちられてるかもしれない、と思ったが。

意外だった。そこにいたのはシキとルックだった。
怒られるかもしれない、そう思ったが行く気だった。
「遅いよ。」
ルックのその言葉にサキは唖然とした。よくても何してるか聞くぐらいで、協力する気なんてないと思っていたからだ。
「僕がルックにてレポートを頼んでおいた。僕は戦争に参加しないから時間だけはある。君についていくよ。」
「あ、ありがとうございます。」
シキの言葉にサキは頭を下げた。
「もう予定の時間を過ぎている、ルック。」
「まったくなんで僕が。」
といいつつルックは呪文を詠唱し、二人の姿は消えた。
二人が消えた後、ルックはため息をつき、魔法兵団の元へと向かった。

◇◆◇

突然現れたシキとサキにこの診療所の人々は驚いた。
「あ、サキさまだー。」
「サキ様来てくれたんだー。」
先にわれに返ったのは子供たちだった。
「ねぇねぇ、その人は?」
「シキさんって言って、僕を手伝ってくれているんだ。シキさんはね、トランの英雄なんだよ。」
「わぁ~。」
「すっご~い。英雄って初めて見た。」
「すごい、すごい。」
サキの言葉に子供たちは沸く。シキはそれに対して微笑みかける。
見た目は子供だが、大人っぽさがシキからかもし出されているため、子供たちは羨望の目を向ける。
それに対して、シキは英雄の行動をとるよう心がけた。

「先生、タキが、タキが、。」
一人の女性がそこへ駆け込み、医者にすがりついた。
医者は慌てて外へ出る。サキもそれに続く。シキは子供たちに諭した。
「いいかい、君たちはここで待っているんだ。私かサキか、先生がここに来るまでね。」
しかし、子供たちは不安そうだ。
「大丈夫だよ、大丈夫。私たちのうち誰かが来るまでここにいるんだよ。」
シキの優しい微笑みは、子供たちを勇気付けた。そして、彼の言葉は信じられた。
タキは死ぬかもしれない、それでもシキが、トランの英雄がいるなら大丈夫、そう思えた。
「シキさん、僕は自分を英雄だとは思えませんけど、それでも今このとき彼らの英雄であってよかった、そう思えますよ。」
瞬きの鏡で戻る直前彼はそう言って微笑んだのであった。

◇◆◇

タキという少年は発作にみまわれていた。サキは励まし続けた。
タキの発作はまだ終わってなかった。それでも、サキは行かなくてはいけなかった。戦争の指揮を取るために。
「ごめんね、僕行かなくちゃ行けないから。」
「いえ、ケホ、来ていただいた、ケホ、だけでも、ケホ。」
タキは弱々しく微笑んだ。
「それにトランの英雄様にも、ケホ、会えましたし、ケホケホ。」
タキはつらそうだった。後ろ髪を引かれながら、シキとサキは診療室を出た。
「あの、シキさん、ここにいてあげてくださいませんか?」
サキは恐る恐る聞く。
「だめだよ。僕は君が戦場に行くまで護衛しなければならない。」
「でも。」
「君は盟主なんだ。分かっているのだろう?」
「でも。」
「いいかい、あの子供は僕にもあこがれているけど、君にあこがれているんだ。君は英雄だ。」
サキは唇をかんだ。
シキは子供たちに医者の迷惑にならないようにするんだよ、と言って何事もなかったかのように振舞った。

◇◆◇

「君も甘くなったものだね。」
サキを戦場に送った後、シキは戻らずにルックの元にいた。ルックの手助けをするためである。
「テレポートの余力を残すために君が出張るなんてね。」
本来はビッキーがいれば用が済むのだが、ビッキーはシュウが酒で眠らせていて見つからない。そのためサポートすることにしたのである。
「頼りになるだろ?」
確かにシキの魔力はルック、ジーンに続きメイザースと同じぐらい強い。しかしそれは問題ではなかった。
「話をすりかえないでくれる?」
「やっぱりルックには分かってしまうか。私、と言う方が地の一人称だって気が付いたのも君だったしね。」
「それほど聞かれるといやなことなんだ。」
シキがのらりくらりと回答を避けるなか、ルックは眉間を寄せる。
「僕は今でも厳しいつもりだよ。あの子はすべき事をなした上でしていることだから。」
ポツリと漏らした言葉にルックはまだ眉間を寄せたままであった。
「君はまだ、あのときのことを後悔しているのかい?」
シキは微笑んで答えなかった。

◇◆◇

戦争は同盟軍が王国軍を追い返して終わった。
そしてすぐ、シキとソラ、ルックは診療所にテレポートしたのであった。あれから3日たっていた。

シキは着いたとたんタキが死んだことを悟った。右手が疼く。しかし顔には出さなかった。
子供たちはまだ何も知らされてないのだろう、彼らは普通に過ごしていた。

「間に合わなかったんだ。」
サキはタキの部屋にまず行った。しかしそこで待っていたのはタキの死、だった。
「君は間に合ったんだよ。死ぬ前に君の顔を見れた。」
淡々とシキは言った。ルックは解放軍時代のときのことを思い出していた。同じようなことがあり、シキはいけなかったのだ。急に戦争が起きたせいで約束の日に行くことができなかった。
その間に、シキに会いたかったと言って一人の少女が死んでいったのだった。
先ほど聞いた後悔はこれのことであった。
シキがサキに甘い理由が何となくルックには分かった気がした。
サキはすべてのことを成し遂げてしまうかもしれない、すべてではなくてもシキができなかった多くのことを。だからこそシキはサキに甘いのだろう。
ルックはサキの慟哭を聞きながらそんなことを思った。



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