裏切り
世界は光と闇に包まれている、そして自分はその光と闇の中にいる。
人は光だけでは生きてはいけない。
それでも闇だけに囚われていては前には進めない。
もし、前に立たなければならないのならば、自分の闇を隠して行かなければならない。
自分が気づかないほど奥底に。
「なぁ、お前、なんで五将軍嫌ってんだ?」
ビクトールはシキに問いかける。
人々は、今、シャラザード攻略し、最後の戦いに向け、時の声を上げようと準備していた。
人々は沸き立つ。
その中で、ビクトールとシキの間にある奇妙な緊張感だけが周りから浮いていた。
「僕が?」
シキは何を言っている、という風に首をかしげる。
「あぁ、避けているのは、フリックやら、アレン、グレンシールやらいるけど、それはまぁ、あいつらのことを気に入っているからなんだろ?そうじゃなくてな、嫌ってる、って言うのは違ってるかもしんねぇが、なんかわだかまりがあるんだろ?特に、テオとソニアとカシム・ハジルに。」
ビクトールはわしゃわしゃと自分の頭を掻く。
その言葉をじっと聴いていたシキはふぅ、と息を吐く。
「ビクトールにはかなわないな。」
そう言ってじっと下を見つめる。
ビクトールはシキが話し出すのを待った。
「私は近衛兵になったばっかりのとき、五将軍の全員にお会いしていたんだ。その時はまだ、誰も操られていなかった。しかし、赤月帝国は腐敗していた。彼らは何もしなかった。」
ビクトールは納得する。
「そうか。だから特に、操られてなかったカシム・ハジルとかソニアに確執があったんだな。」
「・・・・まぁ、そんなところだ。」
シキは、この話は終わり、という態度を示したが、ビクトールはこれからが、本題、というようにシキの方に向き直った。
「お前はテオだけは許せなかったのか?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。」
低い声で二人は言い合う。
「テオ、は一騎打ちをし、敗れた。父も私も全力で戦った。もちろんお互いに手加減なぞ、できなかった。」
「そんなこたぁ、分かってる。そうじゃなくて、お前はテオを許してないだろう?最後まで忠誠に尽くし、民をないがしろにした男、と思っているんじゃないのか?」
すぐさま否定された言葉にシキは目を閉じる。
「否定はしない。」
ポツリ、とそれだけを言う。
「吐き出しちまえよ、その胸の中にあるもん。」
ビクトールはシキを後ろから包み込む。
いつもは振り払うのにシキはじっと下を見たままだった。
「私は、父の許しの道具、だったのだろうか?僕は自分の意志でここにいる。だから、たとえ、そうであったとしてもここにいるけど、それでもふと、考えてしまうことがある。民のためにあれ、そう、言ったのは父だった。しかし、父は忠誠を取った。」
ぽつり、といった言葉にビクトールはちげぇよ、と返すことはできなかった。
それは彼が求めている言葉ではない。
「頭で分かっていても、感情が納得しねぇ、ってことなんだろ。人間ならば、当たり目ぇのことだ。」
「じゃぁ、私のことは、理性のことが勝ったんだね。」
ビクトールは頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「時たま、バカになるよな。テオは成長したお前と戦いたい、と多分思ったんだぜ。」
「・・・・・・そうかもしれないね。・・・・・・ねぇ、ビクトール私は、感情が納得しなくても行動できてしまう私は人間ではないのかな。やっぱりバカだな。どっかおかしくなってる。」
くすくす、冗談でも言っているような様子であったが、そこには暗いものがあった。
「感情をコントロールできる、ってのも人間の得意技なんだぜ?」
そう、ビクトールは切り返す。
「・・・・・・そうだね。・・・・ありがとう。」
そのシキの言葉にビクトールは笑った。
「いいってことよ。ほら、行くぞ。」
人は光だけでも闇だけでも生きていけない。
それでも人は闇を拒否する。
そして、闇を拒否していて闇に囚われてしまう。
闇の奥底に光はあるというのに。
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