罰の紋章
4主→カイ
カイとナナミは居間にいた。なんとなく暇をもてあましていたのだった。
二人はゆったりとくつろいでいたのだが、ナナミがカイに話しかけてきた。
「その紋章ってどんな紋章なの?」
そう言って無邪気にナナミは左手を指差す。カイは答えに迷った。
そこへ大量の洗濯された服を持ったキリルが通りかかった。
持ちにくそうにしながら運んでいる。
「真の紋章なんでしょ?」
ナナミは答えないカイに不思議そうに尋ねる。
「ああ、罰の紋章って言うらしい。」
150年たったとはいえ、何も知らない誰かに罰の紋章にまつわる話を言うことはためらわれた。
自分一人の問題だったら、ここまで迷わなかっただろう。
「あ、カイちょっと手伝って欲しいんだけど。」
その様子を見かねたキリルはカイを呼び止める。
「ごめん、また今度ね。」
そう言いながら、カイはキリルから半分服を受け取った。
「うん、じゃぁね。」
ナナミはおとなしく手を振った。
◇◆◇
「助かったよ。」
カイはキリルに感謝の目を向ける。
「まぁ、お互い様だし。そういや、その紋章について俺は何にもしらねぇな。」
キリルは考え込む。
「確か変な海賊が持っていて、変な紋章が浮かびあって消えたなと思ったら、白い髪の海賊に移ったんだっけ。」
キリルはずいぶんと昔になった過去を思いながら言った。
150年前の初めて知る過去にカイは驚いた。
「その話、初めて聞いたよ。ねぇ、その海賊、ブランドって言わなかった?」
「確か、そんな名前の人だった気がする。エドガーって人とそう呼び合ってたと思う。」
ブランドはカイにしては怖い、としか感じなかった人物だ。
キカと知り合いと知っても、以前は違う性格だったと聞いてもその怖さはぬぐえなかった。
「まぁ、俺は小さかったから、ちゃんと覚えてねぇけどな。」
それは嘘だった。父が死んだあの日は今でも鮮明な記憶に残っている。
たとえ、父が救われていたとしても、キリルの中の父はあの日、死んだのだった。
「それにしても、150年も気にしないなんてキリル君らしいな。」
罰の紋章は邪眼のおまけみたいなものだった。痛いところをつかれて、キリルはつまる。
150年前は平気だったけれども今さら君付けも恥ずかしい。
「キリルでいい、って言っただろ。」
「そうだっけ?」
カイはすっとぼけた。
そして大きく息を吐いた。
キリルには知ってもらいたかった。150年前のことを知るものはもうほとんどいない。
同じ真の紋章を持っていたテッドやジーンぐらいだろう。
そして、いつテッドのように死ぬかも分からない。
「この紋章は宿主の命と引き換えに、大きな力を宿主に与える。」
さっきとは打って変わって真面目な声。その真剣さにキリルは戸惑った。
「じゃぁ、なんでカイは生きてたんだ?」
邪眼を追っていた時、罰の紋章をカイは平気で何度も使っていた。
群島諸国で起きた群島諸国解放戦争でも何度か使われたという。
「最初に殺そうとしたのがカニだからじゃない?」
あまりに軽く返されたので、そのギャップにキリルはついていけなかった。
「カニ?」
「カニ。」
キリルの困ったような顔にカイは思わず笑う。
キリルはむっとした。
「ま、冗談は置いといて、なんで生き残ったのか僕自身にも分からない。守るためとはいえ、大量に殺しているのは変わらないんだからね。」
カイはあくまで明るく軽く言う。
「……殺していることには変わりはないか。」
過去のことを思い出しながらキリルは言った。
昔は魚人を殺せなかった。でも、あのころ魚人以外には容赦がなかった気がする。
考え込んだキリルにカイは明るく言った。
「ま、そこまで深く考えることはないんじゃない?とりあえず、カニを食べる時はいただきますをすればいいんだし。」
その突飛な発想にキリルはついていけなかった。
「いただきます?」
とりあえずその言葉を繰り返す。
「だって罪を死ぬことで償っていたらいちいちカニを食べる時に死ななきゃいけないんだよ。しんどいじゃないか。」
あくまで真面目にカイは言う。
「そ、そうか。」
少し戸惑いながらもキリルは頷き返した。
「だから、いただきますだよ。そして、ありがとう。ごめんなさい。償いの仕方は分からないから、だから探し続けるつもりだよ。」
「カイのそう言う考え方が罰の紋章に気に入られたのかもな。」
意外なキリルの言葉にカイは照れた。
「罰の紋章の話、聞いて欲しいんだけど。」
「あぁ、俺も知りたかったしな。」
カイは初めて罰の紋章にまつわる話をカイに語りはじめたのだった。
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