坊ちゃん→ティル

「ねぇ、海ってどんなところか知ってる?」
ここは、グレックミンスター上空。ブラックに乗って、空に舞い上がったとき、ティルはテッドに尋ねた。
「あぁ?ってお前、見たことないの、って、痛ってー。」
「舌噛む、って言ったはずだよ。」
ティルの問いに答えようとしたテッドは舌を噛み、フッチに冷たく言われる。
「お前、生意気、って痛ってー。」
「こいつバカ??」
「何おぉ。」
「ホントのことじゃん。」
フッチとテッドの言い争いが、始まろうとする。

「はいはい、そこまで。」
ティルは二人の間に割り込む。
「それ以上すると、また、痛い目にあうからね。」
そう言ってにっこり笑う。二人は黙り込んだ。
先ほど、テッドとフッチが言い争ったとき、テッドもフッチもティルの静止を聞かず、切れたティルは、問答無用とばかりに二人のみぞおちに棍を叩き込んだ。
二人は息ができず、しばらくの間、うずくまるしかなかった。ある程度、手加減はしていたようだが、それでも二人は地獄を見たのだった。

「でさ、海ってどんなとこ?湖なら見たことあるんだけどね。」
ティルの目は期待に満ち、輝いている。
「もう少ししたら見えるじゃねぇか。」
テッドのその言葉にティルはふくれる。確かに、魔術師の塔は河口にあり、もう少ししたら竜の背から見える。
ただ、それじゃぁつまらないのだ。
「テッドとフッチの知ってることが聞きたいんだよ。」
「え、俺もか?」
突然、指名され、フッチは戸惑う。
その彼をティルは期待を込めた目で見る。
「えーっとな、とにかく広いんだよ。湖なら空から見たら向こう岸まで見えるが、海は見えないんだよ。後、潮くさい。」
フッチは考えながら言う。
「なるほど。空を飛べるから言える答えだな。フッチはいいよな、大空をブラックと翔るんだろ?」
「ああ、まぁな。」
羨ましがられて悪い気はしない。フッチは照れて、鼻をこすった。

「でさ、テッドは海ってどんなとこって思った?」
「あぁ?ええっとな、確か母なる海って、ホントだなってな、思ったはずだ。ずいぶんと前、のことだからなぁ。」
そして、いたずらを思いついたように言う。
「そうそう、海って俺みたいに懐広いんだぜ。」
その言葉にティルは考え込む。
「うぅ〜ん、どっちかって言うとテッドは空かな?大きくて広い、青空。って言ってもまだ、海見たことないんだけどね。」
ティルの素で言った、その言葉にテッドは絶句した。それから、真っ赤になったのだった。
「どうかしたの?」
と首をかしげて聞いてくるティルにテッドは答えられない。

とその時、目の前に空とは違う、深く青い海が広がってきた。
「あ、海だ!」
ティルは声を上げる。そしてじっと海を見る。
フッチは、ブラックに言ってしばらく魔術師の塔の上を旋回するように言う。


二人にしてみれば、何度も見てきた海の青だが、なぜか今日は違うものに見えたのだった。


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