孤独
じーっとこっちを見てくる視線がある。
絶対ティルがまた何かたくらんでいるなと思い、周りに注意を払う。
が、どこにも異常はない。たぶん。そう確認して、俺は歩き出した。
歩き出したとたん、あいつの気配はなくなった。
何がしたかったんだ、と思いながら食堂から、与えられた与えられた部屋に慎重に行く。
「テッド。」
角を曲がろうとした時だ、実は気配だけ隠していたティルは俺を呼んだ。
俺は振り返った。と、同時に床を滑ってこけてしまった。
・・・・・・角を曲がった向こうに油がひいてあったのだ。
しかも、ご丁寧に俺の気をそらすようなまねをして。
「大丈夫。?」
ケタケタケタ、と笑いながら、ティルは手を差し出した。
「あ、ぁぁ。」
といいつつ俺はティルの手を振り払って立とうとした。
が、ティルは俺の手を、しかも右手を掴んできた。そして、俺を立たせる。
何度もあいつは俺にべたべたと触り、右手を掴もうとする。
「なんで俺にかまうんだ?」
それは何度もティルに繰り返した問い。
「かまっちゃ駄目なの?」
ティルは小首をかしげてにっこり言う。
俺はこの後のことが簡単に予想できた。また、同じことの繰り返しになるだろう。
300歳も年下相手に、俺はいつも煙に巻かれてしまう。
ただ、最近感じたことがある。
こいつは一人、なのかも知れないと。
グレミオさんとかはいるけれど、彼らは大人で、母親はおらず、父親もいつも遠征に行っている。
……しかも無事に帰ってくるかも分からない。
いつもテオ様が行った後、あいつは下唇をかんで黙ってテオ様の遠征先を見ている。
同年代の子供は、いない。
あいつはガキの癖に頭が回って、だからこそ話が合わない。
「テッド?」
ティルは不安そうな顔をした。
「なんだよ。」
そういいながら俺は少しこわばった笑みを見せながら頭を叩いてみた。
「あー、何するんだよ。」
そういいながらもティルは笑顔になった。俺が、初めて友好的な態度を取ったからだろう。
「これから釣りに行かないか?」
ティルはびっくりした顔をした。俺からの初めての誘いだったからだろう。
「うん。」
ティルは笑顔で頷いて、俺の手をとった。
本当は、馴れ合ってはいけないと思うけど、それでもあいつが一人でいることは、つらいことだと知っているから。
あいつは呪いも持っていないのに、一人だった。俺より深い孤独を持っていた。
それに、あいつが右手を握ったとき、こいつは反応をしなかった。
だから、あいつにダチができるまで、そのほんの少しの間だけ。
俺はあいつと一緒にいてもいいかもしれない、と思った。
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