リオウが重荷を感じていることに気がついていた。
逃げると決めた後も後悔が時々押し寄せてくるのは見て取れた。
そんな状態で逃げ出したとしても後悔するだけだってわかっていた。
引き止めてやるべきだってわかっていたけれど、でも、引き止められなかった。

だって、亡くしてしまってからじゃぁ逃げられない。


ナナミがリオウを背負って、ティルが前をルックが後ろを守る。
何度目になるか分からない襲撃を後ろから受けた。

どこからともなく沸いてくるゾンビ系の生き物には気配がない。
背後から襲われて、ルックが負傷し、気絶する。
ティルが慌ててそちらへまわるが、それをあざ笑うかのように、もう一匹挟み込むようなカタチで出てきた。
後で回復をすることにし、ティルは傷を追うことをいとわず、とりあえず目の前の敵を倒す。

そんなうちにも、もう一匹はナナミに迫ってくる。
ナナミはリオウを地面に下ろし戦闘体制に入ろうとするが間に合わない。

そのとき、一人の男性が入ってきた。
明らかに、戦い慣れをしており、強い意志を持ったいかにも渋い感じの男性は、ただ一刀振るわせただけで、モンスターは切り伏せた。

「二太刀いらずのゲオルグ・プライム」
その二つ名の通りに。

ナナミはお礼を言っていたが、ティルは何も言えなかった。

日も翳っていて、怪我だらけだった。ティルやナナミたちには休息が必要だった。
「そこで野営するつもりだ。来るといい。」

そうして、共に夜をすごすこととなった。

夜。
誰もがつかれきって眠りこけていた。
ゲオルグとティル以外は。

座って火の番をしているゲオルグの横にティルは立った。
「はじめまして。」
ティルは緊張しながらゲオルグに話しかけた。
「テオの息子のティルだろう?」
「私はティル・マクドールです。解放軍の軍主でした。」
ティルは一気に言った。ひどく緊張して手が震えていた。

親友の息子でなく親友の仇だといったティルをゲオルグは見つめた。

「お前は俺の親友の息子のティル以外には見えんのだがな。」

重い荷をティルが背負っているのがすぐに分かった。
トラン解放戦争の時、赤月帝国に戻れなかったことをゲオルグは悔やんだ。
とはいえ、ゲオルグがいたとしても何もできなかっただろう。

「僕は。」
言葉を続けることができず、ティルは押し黙る。

ゲオルグはティルに座るように示した。
ティルはおとなしく座る。
「大きくなったな。」
「はい。」
「お前の成長を見守ることが俺にとってもテオにとっても楽しみだった。」
「はい。」
「テオもうれしかっただろうよ。テオが恨んでいないのだからな。俺がお前を殺すことはない。」
ティルは黙って聞いていた。
ゲオルグの言動一つ一つが父を思い出させた。

「お前がテオを殺したということをお前が罪と考えるなら罪なのだろう。背負うなら背負っていけ。」
父を殺したことを目の前で罪だというものはいなかった。罪悪感がいつまでもあった。

「ただ、それはお前が課した罪だ。押しつぶされるな。」
ゲオルグはティルに罪がないといっても納得しないことが分かっていた。
どうやら同盟軍の盟主らしい人物の逃亡も手助けをしていて、その重荷に潰されそうになっているのが目に見えた。
ティルにはまだ支えが要るだろう。

「もうしばらく、ここにいるとするか。何かあれば来るといい。みやげ話もあるしな。」
ゲオルグはあえてテオがしたようにティルの頭をなでた。

「ありがとうございます。」
ティルは頭を下げた。

「もう遅い。これから行くにしても帰るにしても体力が必要だろう。休むといい。」
ティルは頷いて、横になった。
傷ついていた体は睡眠を欲していた。猛烈な睡魔にティルは襲われる。

「迷いというものは最良の策を得るためのものだ。迷って傷つくこともあるかもしれないが、迷うのは当たり前のことだ。お前は迷った末に最良の選択をした。トラン共和国に行ってきたがみな笑っていた。心配しなくても、お前は見極める目を持っている。」

そのゲオルグの声をBGMにティルは眠ったのだった。








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