のぞみ
1主→ティル 5主→コロナ
「コロナおにいちゃん?」
小さな声。それでようやくコロナは我に返った。
まだ、体中が返り血で赤い。
「コロナおにいちゃん手を開いて!」
そう言われて初めて手が爪に食い込んでいたため、血が出ていたことに気がついた。
「汚れるよ。」
ティルは首を振り、血に汚れることもいとわず、コロナの手に包帯を巻いた。
「汚れるよ。」
「コロナおにいちゃんはよごれてない!!」
ティルはコロナの意を正確に感じ取っていた。
「僕がたくさんの人を殺したのは事実だ。」
この身を染めている赤い血はファレナの民の血。
この国のためを思い、死んでいったものの血。
「ボクはいつか人をころすよ。なっとくできなくても。ボクはしょうぐんのむすこだから。」
ティルは困ったようにぽつりと言った。
◇◆◇
ソルファレナを奪還した。
しかし、失ったものはあまりにも多かった。
サイアリーズは死に、ギゼルはリムの心に大きな傷を残した。
ギゼルをリムの前で殺したのはコロナだった。
リオンの手には黄昏の紋章がある。
命を削るかもしれない黄昏の紋章が。
そして、今、また、リムはコロナに太陽の紋章を追うことをお願いした。
黎明の紋章を持っているコロナに、女王として。
相手は真の紋章である。コロナが死ぬ確率は決して低くない。
それでも、リムはコロナに頼んだのだった。
結局、自分の手にはほんの少しのものしか残らなかった。
◇◆◇
「ティル、戦争が終わったから帰るよね。」
戦争が終わったら帰る、そういう約束だった。
「まだ、終わってないよ?」
ティルは首を振る。
「コロナおにいちゃんが帰ってくるまでまってる。」
コロナが帰ってこないかもしれない、ということは視野に入っていないようだった。
ティルの純粋さを見ると少しだけコロナはほっとした。
「帰ってこれるかどうか分からないから。」
コロナはティルの目線あわせるようにかがんだ。
「もし、帰ってこなかったら、リムおねいちゃんと、おにいちゃんをさがしにいくからね!約束したんだ。」
ティルはコロナをにらめつけた。帰ってこないかもしれない、ということに腹を立てたようだった。
「だめだ!!」
コロナは強く否定した。
「わかってる。ぼくは帰らなくちゃいけない。ボクは帝国の将軍になって国をまもるんだ。」
コロナは、ティルが不安がっているのは分かっていたのに、自分の感情が制御できず、ティルにひどい言葉を投げつける自分がいやになった。
「コロナおにいちゃんも国をまもるんでしょ?」
その言葉にコロナは頷く。
コロナにはこの国があって、自分は希望の象徴になると決めたはずだった。
それをすっかり忘れていた。ティルの言葉で思い出した。
「うん、絶対帰ってきて、国を守るよ。」
「約束だよ。」
「あぁ。」
コロナは優しく微笑んだ。
これが、みんなが望んでいることだった。
コロナは王子にふさわしい笑みを浮かべ、ティルに帰ってきてこの国を守ると、指切りをしたのだった。
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