すれちがい


1主→ティル 5主→コロナ

海は大きく、広く、一人ぼっちになりそうな気分になる。
すべては終わり、たくさんの人が旅立っていった。

そして、今、また一人去っていく。

結局、一人なのだ。
今に始まったことじゃない。

自分のことを思っていてくれる人はいることは分かっている。
それでも、傍にいて欲しいと願ってはいけないのだろうか?

◇◆◇

「コロナおにいちゃん。」
ティルがコロナを呼ぶ。
「どうしたんだい?」
コロナは微笑む。
「なんでもない。」

ただ、呼びたかっただけなのだろう。
あと少しで別れが来る。
船に乗っている間、ティルは何度もコロナを呼んだ。

そして、無表情に顔を背けるのだった。
理由は分かっていた。コロナがティルの前でも王子でいようとしているからだ。
自分が言ったことに対する責任やコロナが他人行儀である悲しみがティルを無表情にさせているのだろう。

きっかけはティルの言葉だったけど、選んだのは自分だったのに。

◇◆◇

戦争も終わり、ティルは赤月帝国へと帰ることになった。
コロナはオベルに報告することを名目に、ティルを見送るため、オベル行きの船に乗ったのだった。

そして、オベルについた。
ティルとコロナが共にいられるのはここまでだった。

「スカルド殿と話をしてくるよ。」
コロナはティルの頭をなで、王宮へと向かった。
顔にはいつもの笑みが張り付いていた。

◇◆◇

ティルはため息をついた。
コロナは誰を前にしても王子であることを辞めなかった。
たとえ、気さくにしていたとしても、コロナにとって、守るべき民だった。

自分が言ったこととはいえ、コロナが遠くなったみたいだった。

いろいろなことを思っていると、いきなり、影ができた。ティルは驚いて顔を上げる。
「ため息をついてどうしたんだい?」
優しげな笑みを浮かべ、赤い鉢巻をし、二つの剣を佩いた黒い服を着た少年が立っていた。
一目見て、この人も英雄なんだと分かった。

ティルは顔を下に向けた。
これ以上、英雄を見ていたくなかった。










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