心配
坊→ティル、5主→コロナ
ティルからの手紙が途絶えた。
これまで、一度もなかったことだ。
しかも、北の大陸が騒がしいらしい。
反乱軍が、土地の一部を占領したというのだ。
「リム、休暇が欲しいんだけど。」
リムはずべてを分かっているように鷹揚に頷いた。
「頼むぞ、兄上。」
「休暇の内容はロイの劇を見に行くからってとこかな?」
「旅券も全部そろうておる。お忍びじゃからな、偽名にしておいた。」
「じゃ、行ってくる。」
リムスレーアとコロナの息はばっちりのようだった。
突然のことに固まっていた周りは、我に返り慌てた。
「王子!」
リオンはとっさに声をかける。
慌てていたためか、昔の呼び方である。
「大丈夫、大丈夫。今、ファレナは安定してるし。リオンもいるし。」
こうと決めたら、テコでも動かないのが、コロナだった。
さすがに当身を当てるわけにも行かない。
「そんなに長い時間は開けないよ。」
コロナもいちようは立場を分かっているようだった。
◇◆◇
グレックミンスターは黄金の都の名に相応しく、華やかだった。
その中にマクドール家は壮大に建っていた。
何度かコロナはマクドール家に訪れたことはあるが、驚いたのはその大きさに似合わず、使用人がほとんどおらず、その代わりに居候がたくさんいて、家族同様に過ごしていたことだ。
最後にあった時は、テオ、パーン、クレオ、グレミオ、テッド、カイという暖かい家族とティルは過ごしていた。
外からいつでも喧騒が聞こえてきた。
なのに、この静けさは何なんだろう?
全員が戦場に出ているのだろうか?
コロナはじっと屋敷を見上げ続けた。
夕方になって、たまたま通りかかったロイはコロナを見つけ、話しかけたのだった。
「王子さんじゃねえか。」
「ティルは?」
「あー、情報届いてねえのかよ。今、解放軍と帝国軍が争っているのは知ってるか?」
ロイの問いにコロナは頷く。
「反乱軍と帝国軍って聞いた。」
「その解放軍の軍主って奴の名前がティル・マクドール。」
「それって!」
思わず、コロナは声を上げる。
「あのティルだよ。俺はここにいて、まあ、諜報まがいのことをしてる。」
「大丈夫なのか?」
「本当の諜報は別にいるらしいから、それほどヤバいことをしてる訳じゃねぇ。まあ、もうそろそろ、引き上げようとは思っていたけどな。」
ロイは気楽に言った。
「俺、演技、上手くなったんだぜ。」
そして、唐突に話を変える。
「えっ?」
「あん時のヅラも残ってる。」
「それって!」
ようやくコロナにもロイの言いたいことがわかった。
「行ってこい。あのガキのことは俺も気にいってんだ。俺より、お前の方がいいだろ。竜洞騎士団も仲間になったようだし、勝ちは決まっているかも知れねえけど、それでもな。」
「ありがとう、ロイ。」
コロナは本当にうれしそうに笑った。
久しぶりのこの笑顔を見れてロイは不思議と気分が高まった。
「とりあえずはここから出る算段だな。」
そう言って、にやりと笑った。
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