おもいびと


坊→ティル、5主→コロナ

太陽宮の大きな扉をティルはがんばって開けようとしていた。
いつも入るはずの兵士がいない。交代の時間なのだろう。

ゲオルグは扉を開けた。

「ありがとう。」
「ティル、どこに行くんだ?」
「ちょっと、探検。」
そう言って、ティルは笑う。
純粋な笑顔に、太陽宮に漂う重苦しい雰囲気が少し、和らいだ気がした。

「コロナやリムのそばに居てやらんのか?」
「だって僕がいると、リムお姉ちゃんは、コロナお兄ちゃんに甘えられないから。」
ティルの様子が少しだけ、寂しそうに見えた。
しばらく、家族と離れっぱなしであるのも関係しているだろう。

「一緒に行くか?」
「え?…ううん、一人で大丈夫だもん。」
ティルは一瞬迷ったが、首を振る。

「遠くへ行くなよ。」
「うん。」
そう言ってティルは駆け出したのだった。

▼△▼

ここではギゼルの遺体が収容されている。
もう少ししたら、ストームフィストへ移されるだろう。

リムスレーアは一人、ギゼルの前に訪れていた。

「バカ者が!」
返る答えはない。
父も母も、こやつも、居なくなってしまった。

家族の中で残っているのは、兄上だけだった。
認めてはいなかったが、それでも、嫌いではなかった。
もっと違う方法で闘神祭に勝ち上がっていたとすれば、認めてやらなくもなかった。
闘神祭の後でも、あんなことを起こさなければ、認めてやらなくもなかった。

それでも、ギゼルはリムスレーアを見ることなく、逝ってしまった。

リムスレーアがたたずんでいると、後ろで、扉の開く音がした。

リムスレーアが振り返ると驚いているティルと視線があう。

「リムお姉ちゃん。…ごめんなさい。」
ティルは、リムスレーアを邪魔してしまったことを謝る。

「何を謝っておる?お主は何も悪いことなどしておらん。」
「ごめんなさい。」
本当は、入ってきてほしくなかった、という気持ちが分かっり、ティルは再び謝った。

「…もう、よい。それより、傷だらけではないか?」
リムスレーアが良く見ると、ティルは、かすり傷とはいえ、体中が傷だらけだった。
打撲などもある。

「え、あ、大丈夫。」
「傷を甘くみるではない。」
「うん。」
「後で、消毒せねばな。」

ティルの手には花があった。
ソルファレナでは、花壇や花屋はあっても、花が自由に咲いているようなところはない。

ティルは、外まで取りに行って、モンスターにあったということだろう。

「バカ者ばかりじゃ。」
リムスレーアのその言葉に、ティルは下を向いていた。

「供えてくれるのじゃろ?」
リムスレーアはティルの手を取り、優しく笑いかけた。

その笑顔がひきつっていることにティルは気がついたが、何と言っていいのか分からない。

ティルは頷いて、花を端に置いくことにした。

布の下にほんの少し見える姿には、まったく生気がない。
死が重くのしかかる。

沈黙が辺りに占めた。

ティルは立ち去ろうとしたが、服が固く握られていることに気がついた。

「こっちを見るでない。」
震える声でリムスレーアは言った。

「うん。」
「こやつは、本当にうつけものじゃ。」
「うん。」
「わらわは、こやつみたいなことはせぬ。」
「うん。」
語られる言葉に、ティルは頷く。

そうして、二人はコロナがやって来るまでたたずんでいたのだった。







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