心知らず


青い空の中、白い鳥が飛び、緑の植物が這いずり回る。その姿はなかなかシュールだ。
……特に目の前で軽くて、不幸そうな誰かが消化されているときなどは。
まぁ、何とかなるだろうと、無常にもカイは見捨てて歩き出した。

ここは無人島。目当ては古代蟹である。
カイ自身はかなり強い。戦闘はあっという間に終わり、アイテム目当てに、瞬きの手鏡を使うこともなく、無人島なのになぜかある道を、のんびりと帰ってきたのだった。
一本道だから、カイでも迷うことはない。何度、船で迷って、瞬きの手鏡の世話になったことか……

「ねぇ、カイさん、つらくないですか?」
とりとめもないようなことを考えながら浜辺に着いた時、ラグジーが突然尋ねてきた。

彼はカイのことを待っていたのだった。しかも、一人でいるときを狙っていたようだった。
カイはいつもは無邪気に話しかけてくるラグジーが少し躊躇していることに驚いた。

「ねぇ、カイさん、つらくないですか?」
驚きのせいで沈黙を続けるカイに、再度ラグジーは問いかける。その目は左手の紋章に向いている。
左手の手袋の下には命を削る罰の紋章がある。

「これ、のことか?ま、つらくないって言ったら嘘になる。」
カイは左手をひらひらとさせる。それを見てラグジーは首を振った。

「えっと、違います。なんていうか、母上とかリノさまとかキカ様とか皆さん、それについていろいろ因縁があるでしょう?それがつらくないのかなって思って。」

ラグジーは赤くなりながらそういった。少し、言ったことを後悔しているようだった。

カイは再び考え込む。
そして、慎重に自分の考えをまとめた。

「つらくない。別に誰が何を思ってようが関係ない。この呪いの事も、憐憫の感情で見られるとむかつく。俺にしてみれば利用してやろう、って腹積もりだからな。」

ラグジーは驚き、カイを見た。そして、驚きが退くとくすくすと笑い出した。

「びっくりしました。もっとカイ様って、物静かで巻き込まれただけの人だと思ってました。こんなにしたたかだったなんて。」
「その言い方、きついな。ラグジーってそんなに毒舌だったっけ?」

お互いに顔を見合す。
「お互い、よく知らなかったってことでしょうね。」
「だな。ということで、そこの温泉、入っていくか。」
「意外とあなたって強引ですね。」
「嫌じゃないんだろ?俺も弟ができたみたいで嬉しいし。」
「子分の間違いじゃないですか?」

ぼろぼろになりながらも何とか帰ってきたパーティーのメンバーたちはのほほんと温泉に浸かっているカイとラグジーを見て、崩れ落ちたのはまた別の話である。

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