手合わせ



ティルとカイは人気のない訓練場の裏手にいた。
ティルは人がいる場所では英雄モードにならないといけないし、カイは目立ちたくない。
カイもティルもなんとなく人気のないこの場所にいることが多かった。
話をすることもあれば、何も話さず過ごすこともある。

今日はカイがティルに話しかけてきた。

「なぁ、武器見せてくれねぇか?」
カイはティルの黒塗りの棍を興味津々という風に見ていた。
「君のも見せてくれたらね。」
ティルがそういったとたん、カイは二振りの剣を投げた。
ティルは棍をカイの方に投げ、双剣の刃に手が触れないよう刀の腹を指で挟みこんで受け取った。
カイもしっかり棍を受け取る、

「両刃の剣、君の馬鹿力で投げないでよ。」
少し顔をしかめながらティルは文句を言うがカイは気にしない。
「受けとめられただろ?へえ、先は重いけど全体は軽いんだな。」
カイは棍の真ん中を握り、さっと振った。

「この剣は意外と重いね。」
ティルは型のようなものを取ってみるが、重さのバランスが取れない。
そこへ、カイが振り回した棍がティルの方へ突っ込んでいった。
「危ないじゃんか!」
ティルは飛びのく。ティルのいた場所に棍が突き刺さった。

「わりい、わりい。間合いがわからねぇんだよ。軽くてついつい勢いがつくしな。」
「僕は腕力ないから速さがいるけど、君はぶったたくだけで、じゅーぶんだよ。」
ぶんぶん振り回すカイを見て、ティルは呆れながら言った。

「お前も、左手が盾の使い方だけしてたら、もったいないぜ。」
どうしてもティルは、帝国軍に入門するために練習していた片手剣と盾を扱っていたときのように双剣を振り回してしまう。
「う〜ん、難しいなぁ。」

「なんで、この軍に力を貸しているんだ?」
棍を振り下ろしながらカイは尋ねた。棍は振り回すよりも、振り下ろす方が扱いやすかった。

「何で急に?」
「なんとなく。」
ティルといると時々、嫌な視線を感じ、チリチリする。カイは、今もチリチリを感じていた。
「僕がいると、トランの兵士たちは友好ムードになるからねぇ。」

なんとなくその理論は分かった。たとえ今まで敵対していたとしても、戦争がないほうがずっといい。ならば、できるだけ友好関係を結んだほうがいい。形だけとしても。

そして、もし敵対していた国と友好関係を結ぶことを国民が嫌がるのなら、自分のカリスマで何とかしようという気なのだろう。

だから、幕を引いたはずなのに、また表舞台に出ることにしたのだろう。

150年前の自分のように。クールークの皇女と手を組むなんてという声はずっとあった。
それでも、クールークと友好が結べるのならと思い、カイは率先して参加した。結局、クールークは瓦解してしまったが。

「同盟軍の兵士は?」
敵対していた同盟国の兵士たちはティルがいることを嫌がらないか?と言外に匂わした。
「トランの兵士がいないと負けるってことがわからないほど馬鹿じゃない。」
「なるほど。」

「時々、感情的に納得できていない馬鹿がいるけどね。」
自分の国がそのことで危機におちることを分かっていないのだろうか?とカイは思った。
「ほんとにな。」
その言葉が合図となり、戦闘となった。

得物がいつもと違うとはいえ、二人の敵ではない。
あっという間に、死屍累々と襲撃者たちが転がった。

「僕に誰が首謀者か、何が目的なのか教えてくれませんか?」
カイは襲撃者たちに優しく尋ねる。口調はティル以外に話す時通りの敬語で、しかも一人称が僕である。
「二重人格。」
ティルがボソッとつぶやいたが、カイは無視をすることにした。

襲撃者は黙り込んだままだ。

「ティルさんどうします?今なら誰も見てませんから、僕が埋めますか?」

襲撃者たちはカイの迫力に恐ろしくなって口を開こうとしたがティルがさえぎった。

「君にそんな言葉遣いで言われると気持ち悪いなあ。まぁ、君たちもこれに懲りたら僕にちょっかいを出さないことだね。二度目はない。」
そう言って喉元にカイの剣をあて、喉の皮を薄く切る。襲撃者たちの首から血が一滴流れ落ちた。
「忘れないことだね。」
兵士たちは解放されるなり、脱兎のごとく逃げ出した。

「甘いなぁ。」
「そう?」
「そうだよ。」
ティルもカイも襲撃者たちが同盟軍の兵士のどこの部隊の何という名前なのかまで分かっていた。
伊達に軍主はしてきていない。人の顔をおぼえるのは得意だった。

もし、同盟軍の兵士たちがトランの英雄を襲ったとなれば国際問題になることは必至だ。
だからティルは何も聞かないまま襲撃者たちを放したのだった。

「さ、手合わせをしようか。」
ティルとカイはお互いの武器を持って向かい合った。








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