戦う理由
「ここは王子みずから行くところではないですか?」
そういわれたら、こう答えるしかない。
「まかせてくれ。」
「はい、おまかせしちゃいます。」
ルクレティアは満足したようにいった。
今はみんながいる。
自分が不安がっている場合じゃない。
不安が顔に出ないようにコロナは気をつけていた。
コロナが出ようとするとルクレティアが声をかけてきた。いつものように色っぽく笑っている。
「出発は明日にしてくださいね。」
コロナは頷いた。
◇◆◇
静かな闇の中、水の流れる音だけが聞こえていた。
ベットの中で、コロナは物思いにふけていた。
自分はなぜここに立っているのかと。
ゴドウィンのやり方は民の感情を押しつぶすやり方だ。
軍事力はいるだろう。なければファレナはつぶれてしまう。
しかし、いきなり軍事力を上げれば隣国は警戒し、貿易などに支障が出る。
それどころか、攻め入られる前に攻めよとなってしまうかもしれない。
商業にしてもある程度自由な方が栄える。すべては人の感情に伴うものだ。
民は戦争を求めていない。それでも高い軍事力を得るために女王騎士団や兵士を一流の職業にした。
夜もふけた頃、扉の叩く音がした。コロナはベットから起き上がってドアを開ける。
やってきたのはルクレティアだった。
なんとなく来るだろうことは予想できていた。
コロナはルクティアを部屋に入れ、扉を閉めた。
立ったまま、二人は向き合った。
「王子、調子はいかがですか?」
「悪くないよ。」
コロナは少し警戒しながら言った。
ルクレティアが来るだろうとは思っていたが何を言われるかまでは分からなかった。
「王子、だんだん軍を率いているものの顔になりましたね。」
「そうかな?」
今でも何かあったとき顔にださまいとしても、いつも顔に出ていてリオンたちにばれていた。
ルクレティアは自覚のないコロナを見て微笑む。
「カイルさんがいらっしゃった時も、カイルが無事でよかった、ってにっこり笑って言ってましたよね。」
コロナはぎくりとした。確かに、あの時、自分を責めていた。
僕にカイルを責める資格はない、そう喉元まで言いかかってやっとのことで押しとどめた。
ルクレティアにはばればれだったのだろう。
「王子、不安ですか?」
「ルクレティアが言うなら大丈夫だと思ってる。」
「あら、うれしいですわ。」
ルクレティアは相変わらず色っぽいしぐさで微笑む。
「ただ、軍事国家を否定する僕が、戦争をしようとしているってことが・・・。いや分かっている。ゴドウィン家に対抗する方法がこれしかないことは。」
「王子、悩んでもいいんです。ただ、迷わないでください。あなたが迷えば死ななくてもいい兵が死にます。」
その言葉に母の面影が重なった。コロナはしっかり頷いた。
今までは継承権のない王子で責任の重さは軽いものだった。
しかし、今、コロナは民のために迷わず、この軍を率いていくことを決心したのだった。
「王子、いい顔してらっしゃいますね。ではこれで失礼しますね。」
それを見て、ルクレティアはいつものように微笑み、去っていった。
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