責務
ルクレティアにリムと戦えるかと聞かれてコロナは頷いた。
よりよい国を作ること、それが多くの特権と引き換えに背負わなければならない責務。
王家が持たなければいけない責任と、リムの兄でいるということは両立できないかもしれない。
覚悟はできていると頷いたけれど、ほんとに覚悟があるかといわれれば、分からない、としか答えられない。
コロナはミアキスを避けていた。
リムのためと堂々といえる彼女に会うことができなかった。
そんなことを、ぼーっと考えて歩いていたら、いつの間にか円柱の塔を下り、水辺のほとりまで来ていた。
慌てて引き返そうとした時、目の前にミアキスが立っていることに気がついた。
目は真剣で、体から気迫が漂っている。
「ふっ、ふっ、ふっ、見つけましたよぅ。逃がしませんからねぇ。」
そういいながらミアキスはコロナの前に立ちふさがる。
コロナはじりじりと後ずさる。
ざっぱぁーん、という音がしてコロナの姿は湖の中に一瞬消えた。
後ろがもう湖だということに気づかず、しかも、水のせいで滑って転んでしまったのだった。
「大丈夫ですかぁ?」
さっきまでの覇気が消え失せ、いつものような柔らかな雰囲気でミアキスは微笑んで尋ねた。目は笑っている。
コロナはすねた。その顔は皆を率いて立っている時よりもずっと子供らしかった。
「王子、すねると、姫様そっくりでかわいいですぅ。」
「・・・かわいいって言われてもうれしくないよ。」
「えぇ〜、そうですかぁ?」
そう言ってミアキスは首をかしげた。
コロナはため息をついて、手を上げた。
「降参だよ。」
「当然ですぅ。」
ミアキスはほんの少しだけ、視線を動かした。緊張している時のミアキスと癖だった。
「どんなことがあっても私は姫様をとりもどします。」
いつものような口調でミアキスは言った。
リムを一番にできないコロナの立場を分かっていて、コロナの代わりにリムを最優先にする、と宣言したのだった。
コロナはミアキスの心遣いにうれしくなった。
「ありがとう。」
ミアキスは顔を赤らめた。
「なぁに言っているんですかぁ。王子もがんばるんですよ。」
ミアキスはしらばっくれた。コロナは頷こうとした時、くしゃみが出た。
湖の水でコロナはびしょぬれだった。
「それより先にお風呂ですねぇ。」
ミアキスはそれ以上ころなのはなしを聞こうとはせず、コロナをお風呂場へ押し込んだ。
「もう、王子は天然さんのたらしなんですからぁ。」
ミアキスは王子を風呂に入れた後、そっと呟いた。
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